ピエロの唄 竹下彦一詩集

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 1975年、ギャラリー吾八から発行された竹下彦一の詩集。俳号は「洋燈亭」。柔道八段。

 

 川上澄生さんが逝くなる少し前に、サーカスの唄とピエロの唄の二冊の詩集を、出版仕様と思ひ装幀をお願ひして、サーカスの唄の方は色刷りの扉迄出来たが、ピエロの唄は「身体の具合が悪いので扉は出来ません。」と半分出来で断られて了ったのが、この詩集なのである。ピエロの衣装から思ひついて僕がやってみたが、やっぱり何誰か画描きさんにやって貰ふべきだった。

 

本を売る

 

五十年も大切にしていた
本を売り拂って了った

何時迄も物にこだはっていては
いけないと思ったからだ

友達が次から次へと
死んで行き
その内には僕にも廻って来ると
思ったからだ

僕がどんなに大事にしていても
息子達にはさっぱり大事にされない
物になるかも知れぬと
思ったからだ

一旦 地震でもあったら
この重い本達は抱いて持って
ゆけぬと思ったからだ

これだけの本を
僕が独占しないでいたら
少しは本の好きな人を喜ばせる
事になると思ったからだ

僕が死んだら
遺稿集位は女房が出版して
呉れるだらうが
生きている内にそれを眺めた方が
よっぽど楽しいと思ったからだ

物を欲しがるな
何処かでそんな声が聴こえて来る
もう悟りを開いてもよい歳だ

本はげっそり失くなったが
まだ いくらでも 買へる時がある

さっぱりした気持で
希望を持って生きると云ふ事が
僕には一番大切な事なのだ


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