1978年6月、笠間書院から発行された高橋秀一郎の評論。
私が、はじめて萩原恭次郎について書いたのは、十年ほど前のことで、その頃の私は、東京の巷間の雑踏の中を漂い疲れていた。なぜ私が恭次郎という詩人に興味をもち、文章を書くことになったのか、そのきっかけとでもいうべきものは、今となっては定かではないが、ただその頃の私は、東京という機構社会の匿名性及びその中での個人の存在性とでもいうべきものに関心の的があった。私は萩原恭次郎という詩人の中に、私自身の生きざまの行方を知らず重ねはじめていたのかも知れない。
その後私は、紆余曲折はあったが、やがて恭次郎の郷里からさほど遠くない生れ故郷に帰り、彼の飛んだ軌跡を追いつづけていたような気がする。私が望んだのは、完璧な資料をつくしての萩原恭次郎論でも研究でもない。これは萩原恭次郎というひとりの詩人の、詩をとうして見た詩人としての生きざまの、あくまでも偏見にみちた私論である。(「あとがき」より)
目次
- 匿名の序章
- 黒の助走――詩人の誕生
- 幻想の拠点――破壊者の原点
- 詩集『死刑宣告』私論
- 幻想の行方――迷妄の地平
- 沈黙の決意――『断片』を中心に
- 村へ!の文学――「もうろくづきん」その他の詩
- 幻の地平線を求めて――晩年の思想の位置
- 萩原恭次郎年譜