印象牧場 山下千江詩集

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 1954年5月、長谷川書房から発行された山下千江の第一詩集。序文は金子光晴服部嘉香

 

 山下さんの詩集が出る。服部嘉香さんの愛弟子だ。
 服部さんが保證して、山下さんの詩集を校正刷のままで見せてもらつたが、一通りよんでみて、たいへん面白いとおもつた。
 むづかしい理屈は言はないことにする。むづかしい理屈のない詩だからである。そのかはりに、この詩集には、うすものをすかして仄かに、女の肢體と、そのあたたか味がある。
 その肢體は、卵殻のやうに白く照り、時には鱗粉をちらし、時には、妖しい爬蟲類の光を放つ。ほそぼそとした心理が、神経線のやうに流れる。そこに女の文學の基調があるやうだ。(金子光晴「序」より)

 

 詩を讀むことが和歌や俳句をよむことよりも心充ち足りるものがあつたために、私は詩を讀みつづけてきました。同じ理由で、また詩を書き始めました。
 しかし、今度、いざまとめられた自分の作品を眺めてみて、「詩でなければならなかった」といふものが、果して幾篇あるだらうかと考へてみると、本當に恥かしく思ひます。それで、この拙い詩集は、何よりも私自身への音高い平手打とも云へませう。
 私が、書きたい、と希つた詩は、日本語で書かれる以上、やはり日本人の體臭の滲んだもの――好むと好まないとに拘らず、それは一つの「宿命」として、或はその言葉に誤解があれば、一つの前提條件として――でありたいといふことでした。
 また、もう一つ、わづかに私を慰めるものは、これらの作品は、色々な意味で、私のすぎた日々の記録ではありますが、決して「手すさび」ではなかつた、といふことです。
 ここで、私は私なりに苦しみ、私流の執拗さで何かを考へ、試みつづけてきたと思ふのです。その歩みはまことにたどたどしく、愚かなものではなありましたが、自分では、ずゐぶん精一杯なものだつたのです。
 作品の殆どは『詩世紀』に寄つた三年間に書かれたものですが、文語詩は大方それ以前、その内、「生命唱」と「心」は女學校五年生の頃の作品です。雅く、古めかしいものですが、何か忘れがたくて特に入れました。
 正直なところ、私は自分の詩集を持つといふことなど、思ひもかけないことでした。いつもふんぎりが悪く、まごまごばかりしてゐる私を、この三年間、絶えず溫い眼で見守つて下さいました恩師服部嘉香先生、竹村晃太郎、伊藤康圓、原子太朗、石川宏の諸氏の御厚情は、私の生涯に大きな位置を占めるものです。(「あとがき」より) 

 

  • 目次
  • すがた
  • 追憶
  • 黄昏
  • おほまがどき
  • あぢさゐの花の下で
  • 仙人掌
  • 女の詩
  • 海女
  • 勝負師
  • 象徴畫家
  • 落葉焚き
  • 眺め
  • 戀人
  • 夏のをんな
  • カンナ
  • 白い狐のとぶ風景
  • 詐欺師
  • ある時
  • アンドロメダの生誕
  • 女性史
  • 生命唱
  • スケッチ
  • 牡丹の譜
  • 亡命
  • 梅・柿
  • 寂色
  • 有情淡彩
  • 瓦礫の皿
  • 日記
  • 女人更科
  • 花の傳説
  • 春怨
  • 向日葵
  • 仲秋
  • 歴世
  • 母の座
  • 養老院風景
  • 空地
  • 東京
  • ノラの家
  • 海濱の入日
  • 事變
  • 狂人の時間
  • 寢園
  • 寫樂
  • S先生の像
  • スキー
  • 主婦に
  • 花つくり
  • やまぶき
  • 豚に寄せる詞
  • メンデル
  • 月の出
  • 影の抒情詩
  • これが生きてゐることのささやかなかひならば
  • 沼地
  • 白鳥
  • 地上
  • 廢墟
  • 印象牧場
  • 思考
  • さび
  • 風のある日
  • 過程
  • 理想

 

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