1970年8月、思潮社から刊行された中島玉江(1936~2009)の第一詩集。
詩集『日本列島星屑町にて』に於ける三〇篇の詩は、「別れの唄」「Rちゃんの涙」を除いて一九六一年春から六三年春までの約二年のあいだに書いたものである。(右の二つはそれ以後創った。)
したがってこれらの詩が生まれてから早くも八・九年もの歳月が流れたことになる。その間、埴谷雄高氏の膝元でぬくぬくと眠っていたわけなのであるが、今般、世の中に出してやることになった。今となっては、何故ともなく旅立たせるのが惜しい気がしないでもないが、思い切ってさようならを告げたいと思う。詩たちよ、つらい風に吹かれても死なないでいてくれ、いつまでも元気で過ごしておくれ、と。
(「あとがき」より)
序文 埴谷雄高
中島玉江さんは、或る時代、三鷹に住み、私は吉祥寺に住んでいたので私の許を訪ねてきたのであった。その頃中島さんは吉本隆明君のもとへ詩を持参していたので、そこで中島さんの附近に住んでいる私の話がでたらしいが、しかし、私が格別の意見を詩についてもっているわけでもないので、中島さんが持ってきた詩について何の意見も述べたことはない。ただその時代の中島さんが人生上大きな問題を背負わされていたので、その苦しい話の聞き役に幾度かなったのであった。しかし、やはり一人の詩人に関係のあるその問題は中島さんにより大きな苦痛をもたらしただけで集結した。
中島さんが今度出すことになった詩集のなかの詩篇の多くはその苦悩の時代以前の作品であるけれども、或る浄化作用がこの詩集の出版にあると思われる。何時もただの聞き役にとどまっていたワツィは、この詩集が信じ易い小児の心の持主である中島さんの心のひきたての回帰の場となることをひたすら望まざるを得ない。
目次
- 序文
- 別れの歌
- 美少年
- 貴婦人
- 父
- 死
- 肉体
- 快楽
- 白昼夢
- 男
- 或るハイティーンの死
- 大根の唄
- 嘲笑者
- 別の女と別の男
- 冬
- 葬列
- 老婆
- 心情
- 私の死の時間
- 悲哀
- 秋の恋
- 恋の愁歎
- 音楽の誘惑
- 幼少の夢
- 道
- 二年
- 追悼詩