1973年2月、山梨シルクセンター出版部から刊行された高良留美子の第5詩集。
この本は、わたしのこれまでに出した詩集のうち、もっとも長い時間をかけてでき上ったものである。ごく初期に発想したものから最近のものまで、ほとんど二十年近くにわたっている。主として詩集の後半に並べたいくつかの初期の作品を最近まで完成することができなかったのは、この時期にわたしの経験したいくつもの断層のおかげである。この期間に、それらの詩の原稿は失われていた。三年ほど前に、わたしは原稿を発見してそれを完成する作業をはじめたが(その一部は現代詩文庫『高良留美子詩集』に〈初期詩篇から〉として収録)、詩集の題名にもなった「恋人たち」だけは、原稿からではなく記憶なかから再生された。「アフリカ」や「指紋」など、すでに一度雑誌に発表した作品も、やはり今度はじめて完成することができたと言わなければならない。
わたしはいま、自分の創作の遅々とした歩みの出発点の上に、ふたたび立っているような思いがする。そしてそのことは、わたしの初期以降の作品のなかにわずかながらふくまれていたかもしれない〈うた〉の可能性と、これからまた新たなかたちでかかわっていくことを意味しているように思える。
この二十何年かのあいだ、日本の〈うた〉は人びとのあいだにあったものから個人的な経験のなかへ、物たちのなかへ、そして地面の下へと、逃げつづけていったように思える。わたしは自分なりのやり方でうたを追跡し、そしてなにものかに出会ったが、その一つはあらゆる困難のなかでうたの可能性をつくりつづけている日本の内外の人びとであり、他の一つは、日本のうたを内側から縛っている日本の過去と現在であった。(「あとがき」より)
目次