1984年5月、花神社から刊行された小松弘愛(1934~)の第4詩集。
昨年十月、私はこの連作について、次のように書いた。
前詩集『狂泉物語』(一九八〇年)以前から書きはじめていた連作『嬰児』が、この夏、最後の二篇を書き終り、合計二〇篇、ようやく一冊にまとめ得るところにきた。
「ある時は四本足、また二本足、さらに、ある時には三本足で歩く生き物は何か?」――有名なスフィンクスの謎である。むろん、答えは人間であるが、人は老いれば、四本足で「はいはい」をした赤ん坊も同様になることがある。
『嬰児』は、老人病棟で寝たきりの老女たちの、言うならば「四本足」で這うことを余儀なくされた生活を描いたものである。
「老残」ということばがある。寝たきりになり、呆けが訪れてくるということは、たしかに痛ましいことではある。が、私は連作のなかで、「死出の旅に立つ前、この世の終の場に、呆けが訪れることは不幸なことだろうか」と問いかけてみた。呆け老人をかかえた家族の辛労ということがあるが、これは当人にとっては、おのずと別問題であろう。呆けを、神の摂理というふうに考える人もある。私も、数年のあいだ老人病棟に通っているうちに、この考え方をうべなってもよいような気持ちになっている。(「後記」より)
目次
- 嬰児
- 酩酊
- 船
- 人形
- 記憶
- 歌
- 詩
- 夫婦
- 手伝い
- 春日
- プリン
- 踊り
- コインランドリー
- 泊り
- 物語
- 船出
- 料理
- 魂
- 鳥
- 記録
後記