1974年8月、河出書房新社から刊行された清水昶(1940~2011)の第6詩集。装画は駒井哲郎(1920~1976)、装幀は田辺輝男。
わたしが詩を書くときに、いつも衝きあたらざるをえなかったひとつのものは恐ろしいまでに単独な精神の位相のあり方についてでした。可視の世界を奪われてなお、深く暗い夢の底へと、たったひとりで転落していくような感覚、とでもいったらよいでしょうか。そのことは詩の問題を越えて、つねにわたし自身の生き方とするどく交差してきます。
詩を書きはじめてから十年と少し、世間のさざ波の上をひっそりと揺れて、ここまでながれつきながらも自分でも驚くほど変ったと思いますが、一点、変るべくもないものは精神の飢餓地獄ともいうべきものです。わたしがまだ京都で大学生であった頃、ある詩人は「いま限の前にあるのはまるで昼のような夜、精神の白夜」である、といっています。あれから十年あまり経ったいま、わたしの「精神の白夜」は、夜らしい夜、あるいは朝らしい朝のちからを求めつづけたまま、ますます不眠の日々に荒涼と冴えわたっているかのようです。(「あとがき」より)
目次
- 闇の中から
- おれたちは深い比喩なのだ
- 病気
- 塔
- 聖五月祭
- 二〇歳
- 柩
- 少女Mの死
- ひまわり――冬の章
- 死の年代記
- 遠い血のために
- 野菊
- 背中だけの男
- 朝焼けの日に
- 血縁紀行
- 野の人よ白夜に眠れ
- ひまわり――夏の章
- 素足で歩いてきた者の伝説
- 暗夜への旅
- 野の舟
あとがき