1978年12月、飯塚書店から刊行された嶋岡晨(1932~)の第11詩集。解説は吉野弘(1926~2014)。表紙写真はパリのバトー・ムーシュの甲板ではたらく黒人とエッフェル塔。
学生のころ私家版で出した『薔薇色の逆説』からかぞえて、これで十一冊目の詩集になります。『青春の遺書』『偶像』『巨人の夢』『人間誕生』『永久運動』『産卵』『単純な愛』『釘の唄』『変……。われながら、よくもまあ性懲りもなく、という思いです。何度か詩の筆を折ろうとして、その決意のすぐ下から、耐えがたく湧き溢れるものを、やはりせいいっぱい生かすしかなかったのです。しかも生来鈍物のわたしは、このごろになってやっと、自分の思想に確かな方向を与え、自にふさわしい詩法を見出した、という気がしています。もし読者が、わたしの詩のなかに不都合な社会の仕組みが誘発する怒りや殺意の、より人間的な表現への意図を感知し、わたしが、友愛の共鳴作用をとおして弱者の悲嘆をより大きな反逆的エネルギーに転化させようとの願望を胸に潜めていることに、気づいてくれれば幸いです。(「あとがき」より)
嶋岡さんには、或る種の欝屈した思いがいつもひそんでいるらしい。それは明瞭な対象を有する怒りというようなものではなく、自分自身を含めた人間及び人間社会のなまぬるさとか習慣性とか、要するに、程々に人間であることの、くさぐさへの腹立ちみたいなもののような気がする。
こんなことを言う私自身にだって、同じ思いがないわけではないから、まあ、同じ気質の人間であることは、ほぼ間違いないが、嶋岡さんの場合は、その欝屈が、私などに較べて格段に強く、しかも持続性をもっている。そういう印象が、この詩集を読んで、強くあった。(「解説/吉野弘」より)
目次
I
- 立ち小便の詩
- ソネット
- 詞理師の歌
- 畳の歌
- 布団を叩く女たちに贈る歌
- 箱師
- ワイシャツの歌
- 愛のリポート
- 八月のパリの黒い汗
- 狆糾の雨
Ⅱ
- 調理師の歌
- ぼくの伯父さん
- 燕
- 残された子の落書
- 不惑を過ぎてうたう歌一つ
- 半生記
- 自転車エレジー
- 「おあずけ」
- 「ただいま」
Ⅲ
- 一杯のお茶
- 要求
- 優雅な解答
- 領土
- 死の匂い
- 落馬のすすめ
- 涙の岸
解説(吉野弘)
あとがき