わが町 織田作之助

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 1943年4月、錦城出版社から刊行された織田作之助(1913~1947)の長編小説。装幀は田村孝之介(1903~1986)。

 

「わが町」といふ題名は作者にとつていささかの意味をもつてゐる。
 わが町とはこの作品の主人公である佐渡島他吉が夢みて來たマニラのことには無論ちがひないだらうけれども、しかし、作者はわが町を單にマニラのみに止めないで、言ふならばこの作品の舞臺である河童路地及びその附近の變挺な町を含めて、わが町としたいのである。
 もとよりこの町は作者にとつて全く架空の町である。けれども、作者はこれまで幾つかの作品でこの架空の町を描き、今ではもはやこの町をあたかも實在の町のやうに、作者の胸裡になつかしく溫めてゐるのである。この町に住むひとびとに就ても同様である。
 町も人もだから作者の愛情の産物である。そして今、作者が試みたのはこの愛情の反芻作用である。即ちその結果であるこの長篇を「わが町」と題した所以である。
 因みにこの作品は松竹京都撮影所の依嘱にもとづいて書かれたものであり、執筆に際して撮影所のひとびとが作者に寄せられた厚意と助言には感謝のほかはない。
 なほ、この作品を縮小して、雑誌「文藝」に掲載するに就ては、同誌編輯部の木村徳三氏に、また上梓に就ては錦城出版社の楢原寛氏に、装幀は田村孝之介氏に、それぞれお世話になつた。(「あとがき」より)


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