1955年10月、中央公論社から刊行された宮地嘉六(1884~1958)の短編小説集。装幀は小穴隆一(1894~1966)。
この創作集に採録された作品の大半は未発表のものである。わたしは終戦このかた、発表の可能性があるなしにかかはらず、頼まれざる小説、随筆を書く習慣を自分につけた。最小限度の生活なら子供らが見てくれるといふところまで漕ぎつけたのでこつこつとものを書くことで心をひきしめ、気持を統一するやうにつとめてきた。戦争前後のわたしの作家生活の空白が文壇的にも影を薄くしてしまつたので、そのスランプからはひ上るのは容易でないのだつた。が昔からの縁をたよりに中央公論にぶらさがる気持ちで『老残』(同誌昭和二十七年三月號)を持ち込んだのが再出発のやうなことになり、その後『奇遇』(同二十八年二月號)『八つ手の蔭』(同二十八年九月號)等を持ち込んで首尾よくのせてもらへるなどわたしとしては身にあまるものがあつた。(「あとがき」より)
目次
- 老残
- 八ツ手の蔭
- 奇遇
- 黒革の折りカバン
- 新後家
- 呉
- 巣立鳥
あとがき