1958年9月、穂高書店から刊行された竹森一男(1910~1979)の短編小説集。装幀は賀茂牛之輔。
「少年の果実」は、昭和八年九月の作で、僕の二十二才のときだ。正真正銘の処女作である。当時、改造社が文芸雑誌「文芸」を創刊するにあたって、募集した懸賞小説に応募したのだが発表されたのは昭和九年新年号の「文芸」である。
当時、フランス象徴詩派の影響をうけて、超現実派の詩を書いていた。糞リアリズムの雑誌小説にあきたりなく思っていた僕は、既成文壇を打破するつもりでいた。今からおもえば、文学のこわさを知らぬ若げのいたりで、「少年の果実」はまぐれあたりの快打だったといえないこともない。
しかしいま読みかえしてみても、決して新鮮さをうしなっていない。文学史的にみれば。この作品の位置がどうなるのか。二十才代の新人が輩出している現在、小説の新しさという点でくらべてもちうのも、無駄ではあるまいとおもう。
「小年の果実」はながく改造社に版権があって、本におさめることができなかった。従って、このたびの再発表は二十五年ぶりということになる。
「嘘の宿」はヽ同郊の「文芸」九月号秡発表された。ここに収録したのは「少年の果実」の続編、というより姉妹篇にあたる作品だからだ。
「彗星」は、戦後の作品で、実業之日本社発行の「文学季刊」に発表された。戦友本田実君は帰還早々第一本田彗星を発見したというショックと感動が、作品のモチーフとなってたことは事実である。いうまでもなくモデル小説ではない。「贖罪者」は戦争の体験を基にしてでき上つた作で「文芸首都」に発表された。いずれも愛着の深い作品ばかりである。(「あとがき」より)
目次
- 少年の果実
- 噓の宿
- 彗星
- 贖罪者
あとがき