1977年11月、新潮社から刊行された大谷藤子(1903~1977)の短編小説集。遺著。装幀は原万千子。
大谷さんの作家歴は旧い。昭和九年に『半生』で改造社の懸賞小説に入選して以来、戦前も地味ではあるが、堅実な作家として認められていた。故武田麟太郎が大谷さんの作品を高く評価して、大谷さんは私の師匠だといったという話をきいたことがある。
大谷さんの作風はリアリズムに立脚しているが,私小説ではなく、絹糸で織って、木綿に見せかけた結城紬のように、目立たない渋味のうちに何とも言えない底光りを秘めている。どの作品にも、描写の端々まで、神経が行きわたっていて、それが時によると、却って読むものを息苦しくするところもあった。
この数年そういう息詰まるような筆つきが変って来て、今度の作品集『風の声』には、昔になかったゆとりが滲み出している。恐らく大谷さんの全貌が籠められていることだろう。
(「帯文/円地文子」より)
目次
- 風の声
- 姉とその死
- 郷愁
- 悔恨
- 鎮魂
- 歳月
- 私の叔父