2014年5月、澪標から刊行された高階杞一(1951~)の第13詩集。装幀は倉本修。第8回三好達治賞受賞作。
太宰治の小説「右大臣実朝」の中に、次のような言葉が出てきます。
アカルサハ、ホロビノ姿デアロウカ。人モ家モ暗イウチハマダ滅亡セヌ。
若い頃に読んだ小説ですが、このフレーズがけっこう気に入って、何かの拍子にふっと浮かんできたりします。一見逆説のようですが、「平家ハ、アカルイ。」という件がこの前にはあって、その流れで読むと、まさに真理を突いた言葉ように思えてきます。
翻って、太宰の自死の姿を思い浮かべると、とてもアカルイなどと思えませんが、この鎌倉幕府三代将軍実朝の姿を借りた言葉を読むと、本人は案外アカルイ気持で、この世から去っていったのではないかと、思えてきたりもします。
三年前、食道癌になってから、あれこれと死について考えることが多くなりました。中でも、自分が死んだ後の世界のことを考えては、とても不思議な気がしてきます。自分かいないのに、世界は何ひとつ変わらずに、朝になればいつもと同じように陽が昇り、街にはたくさんの人が歩き、信号は点滅をくりかえす。それは何だか、今ある世界とは別な世界のように思えてきます。
(「あとがき」より)
目次
Iコリント人への手紙
- 草の実
- 菜の花
- 夢の中で
- コリント人への手紙
- 草臥れる
- 庭で犬が
- 夏の散歩
- フクの思い出
Ⅱ 海へ続く道
- 午後
- 散歩道
- 地下鉄で
- うれしい日曜日
- 洗面器の世界
- 骨付き
- 城の中
- 海へ続く道
Ⅲ いつか別れの日のために
- とびこえて
- 春と習字
- 答は空
- 純朴な星
- ガリガリ
- いつか別れの日のために
- 家路
- 春の海
書評等
森のことば、ことばの森