1985年3月、河出書房新社から刊行された中村昌義(1931~1985)の随筆集。装幀は司修(1936~)。
私にとって最初の、おそらくは最後の随筆集である。いつかはぜひとも、このようなものを纒めたいとおもっていた。
言うまでもないことだが、誰しもゆけるところまでしかゆけないものである。したがって、やり残した仕事や心にかかるものが残るのは止むを得ない。私にしても、二、三の無念の思いが残っている。……これまで見えなかったものが、ふいに眼前の霧が霽れたように見えはじめたところだったから。だが、それは欲というものであろう。それはそれで土に朽ちてゆけばよいのである。
短い人生の中で、私は言葉に尽くせぬほどのものを人から享けてきた。それは、文章の一片の中にも息づいているはずである。ありがたいことである。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
- 墳
- 遠い声
- 男の死
- 夢のわかれ
- 白いシャボンの泡
- 鬼の棲処
- こころに懸る
- 昔の場所
- ふるさとの地
- 望郷
- 『陸橋から眺め』まで
- 芸術選奨を受賞して
- 岬へ
- 草原にて
- ぬいぐるみの鼠
- 小さな願いごと
- 婪り
Ⅱ
- 急がれていた――妻木新平追悼
- 文学に惚れこんで――長崎謙二郎追悼
- 山の辺の道――藤野登久子追悼
- 風葬の座――間宮茂輔追悼
- 通夜の道――高木卓追悼
- 細野さんの写真――細野孝二郎追悼
- うるめの唄――中野武彦追悼
- 爪――小出拾也追悼
- 人生の達人――上里美須丸追悼
Ⅲ
- 八潮なる伊草の里に
- 雨とうた
- 汽笛
- 晩白柚
- 窓
- 赤いリュックサック
- 或る手記
- 森間の道
- 花火
- 白い海
- 母親のいない家
- 乳房
- ドアのない電車
- 五右衛門風呂
- 万里の長城
- 地獄
- 遊園地にて
- 夢のまにまに
- 落ちる夢
- もの食う音
- 少女の日記
- 罰があたって
- 雪の道
- あとがき
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