1994年6月、思潮社から刊行された黒岩隆(1945~)の詩集。附録栞は粕谷栄市による解説。
夜、ベランダから、近くの島の灯台の灯をぼんやり見ていると、その少しむこうで、赤い灯が点滅するのに気づいた。漁船の灯ではない。遠い入江の、どんな突堤の灯台だろうか。きっと、もう何年も、この家の窓にむかって光っていたのに。ただ眼をあけていても見えないものがある。
ラジオでアフリカの人が、たどたどしい日本語で話している。
――私の村の人は、眼がとてもいいのです。遠くのものまで、歳とってもよく見えます。外は緑に溢れているし、家では暗くなると寝てしまうし、眼が弱くなる人はいないんです。だから眼鏡は要らないんです。でも、(口ごもり)見えない人がずいぶんいます。病気で、失明するんです。薬がないので――詩が、世界に、私の内と外に、見開かれた眼だとしたら、それは生のままの眼。見えるか、見えないか、どちらかしかない。眼が弱くなったら、さっさと眼を閉じるしかない。
(「あとがき」より)
目次
- 星の家
- 夕焼け
- 桔梗
- 返信
- 北ホテル
- 黄の娘
- 夕顔亭
- 遊星
- 桜
- 夏の月
- 刺青
- 旅人宿
- 蟋蟀
- 森へ
- ロビンソンの島
- 弓張月
あとがき