1976年7月、檸檬屋から刊行された郷原宏の第2詩集(画像は第二版第一刷)。第24回H氏賞受賞作品。
この詩集は、「カナンまで」一篇を除き、第一詩集『執行猶予』(一九六六・思潮社刊)のあと、約八年間にわたって『長帽子』『詩学』『詩と批評』に発表した作品を、逆編年体に配列したものである。
採録にあたっては、改稿の誘惑を排し、最少限の字句の修正にとどめた。
この詩集が成立したのは、ひとえに荒川洋治氏の尽力のお陰である。一九七三年一一月 著者
(「少数の読者のための私註」より)
この詩集は、一九七四年一月、ごく少数の読者のために、書肆檸檬屋から刊行され、まもなく第二十四回H氏賞を受けた。受賞と同時に、各方面から再版を奨められたが、賞を受けたから読んでみょうという読者には読ませたくない、と檸檬屋主人が言い、私もまた、その出版哲学に共鳴した。
しかし、それから二年たったいまになっても、おまえの詩集を読みたいという奇特な人たちがおり、版元へも同様の照会が相次いだため、われわれは当初の方針を撤回することにした。というより、歳月が絶版の理由を失わしめたのである。ただし、われわれはなお少数の読者のための著者であり発行者である栄誉を手放したくなかったので、今回も必要最少限の(と思われる)部数におさえた。
再版にあたり、作品を手直ししたい誘惑にかられたが、これらはすでに私だけのものではないと思い、あえて若干の字句の修正にとどめた。
したがって、なかには現在の私の感受性になじまない作品もあるが、いまは黙ってそのひとり歩きを見守ってやるほかはない。
私は自分の声がどこまで届きうるかということに、それほど大きな期待をもっているわけではないが、ただ私が他人の詩集を読むときのように、この詩集が読まれることを願っている。すなわち、耳鳴りのむこうにかすかな時のせせらぎを聞くような、そのせせらぎが三半器官をあふれて脳髄を水浸しにするような、そうした読まれ方をされたいと願っている。そしてもし何かが聞こえたら、それを私にも教えてほしい。そのためにのみ、私はこれらの詩を書いてきたのだから。
今度もまた、すぐれた詩人にして編集者、荒川洋治氏のお世話になった。記して感謝の意を表したい。一九七六年四月 著者
(「第二版のための私註」より)
目次
- 夏の終りに
- 木洩れ日のなかで
- 兵士の休暇
- 土用波
- いこい
- 木婚
- 井戸
- 予兆のとき
- 蝶のゆくえ
- 遠景のなかで
- 風のなかへ
- 海または殺人者の擁護
- 無言歌
- 詩人が死んだとき
- 乾いた夢
- 森の唄
- カナンまで
少数の読者のための私註
第二版のための私註