1971年9月、昭森社から刊行された上村弘子(1932~)の第1詩集。著者自装。
庭の数本のざくろが、芽吹き、花を咲かせ、実を結び、四季の扉を開閉する。私は、窓辺のざくろと語り、慰められ、あるいは、仲違いをしながら、三年の歳月をひとりの部屋で暮してきた。柔らかい風や、冷たい風が、季節と関係なく訪れ、そして通り過ぎていく。私はそれを、ひとりの女の生きてきた足跡として、詩わずにはいられなかった。
出来あがった作品は、尊敬する村野四郎先生にみて頂きたくて、先生が選をしておられる婦人雑誌に送り続けた。
昭和四十二年から、他の雑誌の選者に変わられたのを併せて四年間、毎月欠かさず投稿した。一か月に二篇としても、百篇近くになる。推い原稿用紙を想像して、申し訳なく思う日もあった。
詩のむつかしさが解り始めたころ、「村野四郎全詩集」が発刊された。私は、まず友人から借り、長い時間をかけてノートに写した。書き写し、読み返すうちに、村野先生の詩の深さが解ってきて、自分の詩に対する思い違いに戦慄を覚えた。村野先生の詩には、なに気ない言葉のなかに、脳髄までも感動させられるものがある。今ではこの詩集が、私の一番身近な愛蔵書となっている。
師と仰ぐ村野先生に、序文を頂くことができて、この上もない光栄である。厚くお礼を申しあげます。
詩集「ざくろ」は、貧しい作品の集りではあるが、一篇一篇、私の分身のような愛着を感じる。私に、詩集発刊の勇気を与えてくださった、諸先輩、友人たちにも、心からお礼を申しあげたい。(「あとがき」より)
目次
序 村野四郎
- 鳥
- 女
- 女
- 女湯
- 女のなかで
- ざくろ
- ざくろ
- 花二題
- 履歴書
- 誕生日
- 狂っている
- 別離
- 脱出
- 出発
- 密室
- 臓物屋
- くらげ
- やどかり
- 骨
- 夢
- 死の形
- 棺
- 山路
- 白根山にて
- ある頂上
- 風景
- こうちゃんと海
- 春の海
- 夏
- 初秋
- 雪みち
- 早春
- ふるさと
- 採寸
- 失語症
- ラッシュアワー
あとがき