2012年6月、書肆山田から刊行された季村敏夫(1948~)の第6詩集。装幀は間村俊一。
ここというとき、逃げていた。距離をおき、見て見ぬふりをし、その 記憶を沈めた。こずるいタイプだった。
ある日、距離が狂った。今ここ、あらわになった過去に、ひきずりこ まれた。他者の出来事があって、やっときっかけをつかむとは、この遅 れはおぞましい。
毎日、書いた。ポケットにつっこまれた稽古帖、おもいついては書き、 考え、傍線をひき、立ちすくんだ。
タイトルは柳田國男の旅行記からとった。子どもの瞳は「天然の一慰 安」だと大正の旅人は書きとめたが、酷薄な一撃を背負わねばならない平成のやよい童子は、ただ歩まねばならず、癒しなど読みとりようもな い。背後から見守る、母なるひとの息が迫る。
今回もいくつかの出会いがあったが、『海炭市叙景』をおもいださせ てくれた岡崎武志さんありがとう、また下鴨、夏の古本市で。
(「あとがき」より)
目次
- 晴天
- 海の宿り
- 枯葉を拾う
- やよい童子
- 旅寝のさかい
- 野辺のおくり
- 荒浜
- こごみ
- つきかげ
- あかるむ庭
- しじま
- つきのき
- 青い空の下の海
- あかり
- うたかた
- ゆりもあはむと
- 陸の饅頭
- ほどかれしもの
- ある一日
- 聖母子
- このよのあけむ
- 車輪
あとがき