1974年7月、詩耕社から刊行された平光善久の第11詩集。序文は小島信夫。装幀は篠田昭二。
またしても戦争ですか、と咎めるような上眼使いをする人がある。
お前だけが戦場へ行ったような顔をするな、と問い詰めるように口元を歪める人がいる。
被害者みたいに書いているけれど、加害者であったことも忘れるなと、義足のきしりに耳ふさごうとする人もある。
もう、みんな忘れてしまったり、忘れてしまったふりをしているところへ、地下の亡霊が出て来たみたいに顔をしかめられることもある。
そんななかで、ここ十五年くらいの間に、詩誌「風」 や「壺」に発表して来たものを、ここにまとめることにした。Ⅰの作品は、直接に戦争をテーマとしたものであり、Ⅱの紀行詩風な作品にも、戦争が顔をのぞかせている。
私は、古傷を舐めているだけかもしれない。ときには瘡蓋を剥がすように古傷をかじって来たのかもしれない。古傷を撫ぜていることが、甘えた仕草に見えているのかもしれない。そんなとき、これを本当に古傷と言ってもいいか、と私は心のなかで呟いたりする。
(「詩集後記」より)
目次
序 小島信夫
I
- とおい歩調
- 破れた軍靴のがざだばぱ
- 蛆のうた
- ためらいがちな一月の夕焼
- 濃みどりの銃口のなかで
- ひとつの兵士の死
- ―狙撃
- 化粧した髑髏
- 骨が鳴る
- 屍臭列車
- 骨の風鈴
- 歯噛みする波頭
- ―驢馬
- 花冷え
- 戦争が溶ける
- 善久寺土塀
- 酔いどれ問答
- 盧溝橋の黒豚
- 三十八年目の秋
- つまようじが川を流れる
- ―黝
Ⅱ
- 網葺たちと
- 晩秋の白樺林
- 歌訪湖鎮魂
- 笛吹川に立って
- 浅間の野苺
- 善知鳥峠を越える
- 塩こをろこをろ
- 天生峠を越える
- 羽のない天の鹿
詩集後記
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