1992年10月、思潮社から刊行された新井豊美(1935~2012)の第3詩集。第23回高見順賞受賞作品。装画は浅川洋。附録栞は粟津則雄「生き生きとした均衡」。
こどものころ歌うことが好きで、思いつくままの言葉にでたらめな節をつけた幼ない「ひとり歌」を、誰にも聴かれないようにしながらよく歌った。なぜそんなことがしたかったのか、そんな癖のあったことを思い出すとあれはいったい何だったのだろうと思う。今はとてもできないけれど、その頃は自分なりの言葉のリズムや旋律感覚をかなりたっぷりと内側に持っていたのだろうか。
ここ数年、父をはじめ親しいひとたちの死にであったり、私自身の自然からの必然もあって死者の場所に関心が集中していったが、その場所には何もないから結局はそこからもう一度この世に戻ってくることを考えなければならなかった。その時にふと歌う言葉のリズムがもう一度訪れてくる気がして、それはどこからか届けられた歌のような、私の言葉であって私の言葉でないような不思議な気がしたものだ。そんなふうにして生まれた詩も幾つか、ここに入れた。
(「あとがき」より)
目次
- リタニアの春
- 三月
- 聖マリア水
- マリアの手首
- 聖天使橋
- 耳のよろこび
- GENOVA
- 夜の手
- 棕梠のカヌー
- かなしむ土地
- 月の小玉
- 夜のくだもの
- 星降る土地
- 夜にくる木
- 夜の船
- まぼろしの天体
- 庭
あとがき