1973年12月、晶文社から刊行された渋沢孝輔(1930~1998)の詩論集。ブックデザインは平野甲賀。
さまざまな主題をめぐって折にふれて書いたものをまとめてみたが、期せずして、この国の近代詩から現代詩への錯綜した流れのなかから、人によっては特殊と思われるかもしれないあるひとつの流れの存在を暗示し、いくつかの露頭部分によってそれをなぞるようなかたちになったようである。そうは言っても、もちろんこれは歴史などではなく、気儘な詩的随想のたぐいにすぎないが、それが多少とも普遍性を持った詩の本質や、この国の詩の歴史に底流する問題への接近ともなりえていれば幸いである。蒲原有明に関するものは、とりあえず問題のいとぐちを示しただけのもので、本論は今後の課題であるが、これはぼくにとってはいままでになく楽しい課題となっている。萩原朔太郎、吉田一穂、瀧口修造等の詩人についてのものは、以前にすでに書いたものの続篇または余滴といったものであり、できれば既刊の書に収めてある拙論と併せ読んでいただけるとありがたい。
中で吉田一穂氏に関する文は、その1が氏の追悼のために書いたもの、その2は氏が亡くなられる直前に、それとも知らず「詩とリズム」というテーマのもとに書いたものである。橋本一明さんに関するものも、遺稿集『純粋精神の系譜』の解説としてこの敬愛する先輩への追悼の意味をこめて書いたものであり、その他、〈流亡〉 の地から戻ってきたばかりであった鷲巣繁男氏を論じたもの、中学時代からの友人田中清光について書いたもの、いずれも著者にとっては格別に思いの深いものである。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
Ⅱ
あとがき