1987年10月、皆美社から刊行された別所真紀子(1934~)の第2詩集。装画は八島直光。
雨や雪が好きである。曇天、湿り気、木蔭にぬれぬれと咲くユキノシタやドクダミ。そんなものに心惹かれるのは「石見」という湿潤な土地に生れ育ったからにちがいない。じぶんの精神形成に、風土というものが深く根ざしていることに気付いたのは前詩集『しなやかな日常』を編む作業のさなかにであった。次のテーマとして自らの風土性を掘り起してみよう、と思い定めたとき、私は逆に、じぶんの風土性の喪失感にゆきあたってしまった。描こうとすれば、小さな名もない村は遠くシャボン玉のようにほろびてゆき、幼時親しんだ村人たちはすばやく森や川や樹や草に姿を変えてしまう、現われるのは死者たちばかり。ひとつの宇宙としての村の蘇りを念じながら、私は私に視えるものを書くほかなかった。
この貧しい詩語集がなにひとつ新しいものを生みださなかったにしても、せめて、ここからの出発のための鎮魂であってほしい、と、 私は自身の内部へむけて祈っている。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ 飛ぶ村
Ⅱ アケボノ象は雪を見たか
- 河口
- 入江
- 草
- 樹
- 洞窟
- 夜
- その名を
- アケボノ象は雪を見たか
「アケボノ象は雪を見たか」について 伊藤桂一
あとがき