2006年7月、思潮社から刊行された斎藤恵子(1950~)の第2詩集。第57回H氏賞候補作品。
この人の作品はどれも主張しない。しないのに、いや、しないからこそ、詩(ポエジー)が確かにそこにある。さまざまな顔で、抑えがたく叫んでいる。叫びながら結晶している。驚嘆して、息を呑んで、見つめるほかない。(高橋睦郎)
海辺に立つと、ふるえるほどなつかしい思いにかられる。何がなつかしいのか思い出せない。何もかも取り払われた空っぽの感じになって、よせる波に満たされていくような気がする。目を閉じれば、波のうねりが見え、やがてひとや樹木が動き出す。
忘れてしまっていても、そこに在ったということは深いところで憶えていて、ひとを変えていくものかもしれない。抑えきれないものがあるのではないかと、急に怖くなってしまうこともある。在ったような、なかったような場面が浮かび消え、引きこまれそうになりながら書いた。
初出は「文學界」「朝日新聞」「現代詩手帖」「詩と思想」「イリプス」などですが、多くは書き下ろしです。
(「あとがき」より)
目次
- 海響
- 海鳴りの町
- 警報器
- 明るい家
- さ緑
- 春の岬
- 麦秋
- さくらの花の下で
- 春の夜
- 西日
- 薄暑
- おろかな日日
- 夕区
- 夏至
- 薔薇
- 春分の日には
- 富士
- 六月の不安
- 予祝
- 島
- 立冬
- 弔いの家
- 牛は
- 光る木
- 淵より
あとがき