消去(上下) トーマス・ベルンハルト

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 2004年2月、みすず書房から刊行されたトーマス・ベルンハルト(1931~1989)の長篇小説。原作”Auslöschung”は1986年刊。翻訳は池田信雄(1947~)。カバー写真はTAKASAWA Tosie”Visage”。新装版が2016年3月に刊行された。

 

 オーストリアの作家トーマス・ベルンハルト(1931-1989)の代表的長編小説をここに刊行。主人公フランツ-ヨーゼフ・ムーラウが両親と兄の死を告げる電報を受け取るローマの章「電報」と,主人公が葬儀のために訪れる故郷ヴォルフスエックを描く章「遺書」からなる本書は,反復と間接話法を多用した独特の文体で,読者を圧倒する.ベケットの再来,20世紀のショーペンハウアー,文学界のグレン・グールド,挙げ句には,カフカムジールと肩を並べる20世紀ドイツ語圏の最重要作家と評価されるベルンハルトとは,いったい誰なのか。
〈死神の鉤爪にがっしりつかまれているのが分かる.死神は私が何をしていても,片時もそばを離れない〉
 ベルンハルトが本書のモットーに掲げたモンテーニュの言葉である、彼のどの作品においても死と自殺のテーマがライトモティーフのように,繰り返される.ベルンハルトの世界は死に浸潤されている。希望や愛など肯定的価値を帯びたいっさいのものが生息する可能性を奪われた作品世界は,極小にまで切り縮められている。当然。狭く息苦しい.しかし,ベルンハルトの小説が徹頭徹尾暗く重苦しいかというと,そうではない.ここにベルンハルトの文学の奇跡がある。そこにはまるで別世界からさしてくるような透明な光が満ち,妙なる音が響いているのだ,世界を呪詛し自己を否定する独白は通奏低音のように暗く強いうなりを発しつづけるが,耳を澄ますと,その上に幾層にも積み重なった倍音が響いているのが聞こえる.その響きの中に,あるべき世界のイメージが浮かび上がるのだ。
(「訳者後書」より)

 

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