失はれた季節 南川潤

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 1939年12月、春陽堂から刊行された南川潤の長篇小説。装幀は三岸節子

 

 この”失はれた季節”は、私にとって最初の書きおろし長篇小説である。長篇小説と云ったところで、たかだか五百枚を出でないのであるが、白状すると、これだけの枚数でさへ私にとっては最初のものであった。それだけに、この小説の中には、私の良さと悪さとの一切が露出してみる筈だ。にもかゝはらずこの一篇は、私にとって限りなく愉しい。それは一人の人間が、全身の精根を使ひ果した時の、あの愉しさだ。
 私は、こんな愉しい思ひをもう一度して見たくなった。次の機會には一千枚の小説が書きたくなった。無謀な情熱の中で一生を使ひ果してしまひたいと思ふ。私には、さう云ふ生き方が性に合ってあるらしい。
 この書物は、”風俗十日””人形の座”に続く、私の第三番目の出版である。
(「自序」より)

 

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