2007年7月、書肆山田から刊行された細見和之(1962~)の第4詩集。装画は浜田洋子、装幀は亜令。第13回中原中也賞候補作品。
この詩集に収められた連作を書きはじめたのは、一九九五年に刊行した第二詩集『バイエルの博物誌』をまとめる前後のことだった。以来、第三詩集『言葉の岸』の出版をあいだに挟んで、一二年にもおよぶ歳月が流れた。出発点にあったのは、機関銃の改良者として知られるベンジャミン・バークレー・ホッチキスが同時にホッチキスの発明者でもあるという、風評ないし憶測だった。
結局、真偽のほどは定かでないようだが、機関銃の持つ弾丸の連続発射という機能と絶えずステープル針を前へ前へと送り出すホッチキスのあり方には、確かに類似性が認められるだろう。私はそこに惹かれたのだった。そもそも機関銃の元祖、いくつもの砲身を束ねてそれをぐるぐると回転させる、西部劇でお馴染みのあのガトリング銃自体、さながら天動説から地動説にいたる、目眩のするような発想の転換を組み込んで成立したものではないだろうか。それをもう一度いわば高速度の天動説にまで引き戻したのが、現在の機関銃である。だとすれば、ホッチキスにはいったい何が組み込まれているのか。そんなことも考えながら、私はこの連作を書き継いだ。(「あとがき」より
目次
Ⅰ
- 増殖するホッチキス
- ホッチキスの生態
- ホッチキス売りの子供
- ホッチキス占い
- わが師との出会い
- 隠語としてのホッチキス
- ホッチキスの兄弟たち
- ホッチキス、普通名詞と固有名詞
- 大東亜共栄圏の嘘つき
- 惨事
- 伝説のホッチキス芸人たち
Ⅱ
- 発明家ホッチキス
- 機関銃の台頭
- 保式機関砲と馬式機関砲
- 太宰治とホッチキス
- バスチーユ広場のホッチキス
- 拷問道具としてのホッチキス
- ホッチキスの墓
- 贈答用のホッチキス
- ホッチキスの星
- ホッチキスの雨降る夜
Ⅲ
- ホッチキスを愛した男の肖像
- ホッチキスを愛さない女
- ホッチキスを愛さないもうひとりの女
- ホッチキスの栽培
- ホッチキスの更生
- ある秋の異変
あとがき