2001年10月、平凡社から刊行された平田俊子(1955~)のエッセイ集。装幀は毛利一枝。
海にきている。堤防に腰をおろし、足をぶらぶらさせながら水のなかをのぞきこむと、トランプみたいな魚が二匹、寄り添いながら泳いでいる。かたわらをエイの赤ちゃんが独りぼっちで悠々といく。白と黒の縞模様はグループ行動。群れて泳ぐ小さな魚たちのからだが金属みたいに一斉に光った。沖合で時折ぽーんとはねるのはトビウオだろうか。魚のなかにもひとりでいるのが好きなのと、そうでないのがいるらしい。
海にきたのはこの本にまとめる原稿を読み直すためである。自分の過去を部屋のなかでふりかえるのはつらい。といって喫茶店にいくのも違う。ここはひとつ大きな風が吹いている広々とした場所を選びたいと思い、海にきた。こういうときに海を選ぶのも平凡といえば平凡だが、版元が平凡社だからこれでいいのだ。
今回まとめる本の中身は今年になってから書いたものもあれば、十年以上前に書いたものもある。読み返しながら、バカだねこんなこと書いて、と赤面することの連続だった。原稿を丸ごと海に投げ捨てたくもなったが、そのくせ風がさらっていこうとするとあわてて握りしめるのだ。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ 日々のこと
- 名前
- 悩める傘
- 詩人と法事
- 日焼けのもと
- 大蟻
- 見えない火事
- ワープロが……
- メロン姫
- 悪い空気
- 南無阿弥・異物
- 句会というより
- 台風と約束
- 青木自転車の前で
- ごめんねベートーヴェン
- 地獄のボクシング
- 「お入り下さい」
- 孔雀と狐
- 洗濯機騒動
- 三階席
- カラオケ・ナイト
- バツイチ
- 風邪か強盗か
- ストーブ犬
- 受験生がくる
- あゝ新幹線
- 「うさぎ」
- 生きているうち
- 6B
- キノコなど
- 財津さん
- 女たちのクリスマス
- 幸せのバラ
- 夜について
- 夜中の明かり
- 血染めの石
- 「ひき肉二五〇グラム」と書かれた紙片
Ⅱ よむこと、かくこと
- 詩を書くとき
- 生きていた詩人
- ありがたい人
- 引き返してほしかった――辻征夫さんのこと
- 死んで花実が咲くのである――久生十蘭のこと
- 尾形亀之助「詩人の骨」
- シャボン玉のみすゞ
- きみの目は
- 詩人の横顔――田村隆一さんのこと
- 「立派な女の子」の力――富岡多恵子さんのこと
- ひとはどこまで孤独になれるか?
Ⅲ 生きてきたこと
- 八尾川
- ベージュ
- 「思ひ出」
- しきたり
- 父のいる町
- 傷
- 性格改善
あとがき
NDLで検索
Amazonで検索
日本の古本屋で検索
ヤフオクで検索