1994年10月、思潮社から刊行された生田梨乃(1959~)の第2詩集。装幀は中島かほる。附録栞は兼子正勝「二人称について」、四方田犬彦「マリアコンプレックス――生田梨乃について」。
この詩集を書き始める少し前に、石川淳の「処女懐胎」を読んでいました。妙にリアルで、ふと、わたしの身の回りの現実生活の中でも、主人公貞子と隣偶わせているようなことが度々あるのではないかという感じをいだいたものでした。それから、一年後、偶然、お守りにといって、知人が七センチぐらいの小さな聖母マリア像を送ってくれました。真っ白でひっそりとした感じのするその小さな石膏像は、とても美しく思えました。わたしは、長い間、それをワープロの上や机の上に置いて眺めていました。もとより、わたしはクリスチャンではないので、キリスト教の教義には不案内ですし、わたしが個人的に好んでいるのは、むしろ、ギリシャ神話の自然の方だったのですが、考えていると、不思議とマリアの名が身近に感じられてくるのでした。けれども、わたしが描きたかったものは、宗教的な事柄ではなく、詩的な瞬間が個人的なシーンの中で浮かび上がったものでした。日常が見知らぬ空間に変わるような旅行中の視線になること。愛が鍛えられること。世界へ出会えることなどを夢見ていました。わたし個人に関して言えば、この詩集を書いていた六年半の間に、自分が女性であることや異性について、以前とずいぶん違った印象を抱くようになったことも言えると思います。この詩集を読んでくださった方が、ささやかな旅を体験してくださったなら、うれしいことだと思います。
(「あとがき」より)
目次
- Callingthemorning
- 冬の食卓
- イブ
- アンドロメダ
- 歩哨
- 石のような
- 彼
- 雪
- レイニィ・デイズ・メモリー
- マリーへの小包
- 砂の花
- 森へいく水
- 星夜
- 忍冬
- ヴァージニア
- ニューヨーク
- 睡蓮
- 春霞
- 夜のテラス
- 蜜月
あとがき