1986年2月、彌生書房から刊行された手塚久子の詩集。装画は前田伸子。
ここに収録した作品は、一九八一年以後のものです。この間に選詩集が続きましたので、久し振りの近作詩集になりました。
敗戦後二十年の視点から発表しはじめた随想――日本女性詩人像も、ひそかな対話を続けて二十年の歳月が流れました。先達者の「人と作品」に向き合う作業のなかで、いつのころからか〈とおろぎ〉を意識するようになっています。
今日、地球上にある諸現象の痛みや、人間がかかえもつ心の闇、いのちのありようから学んだ多くのこと。人生が過ぎ去るものであることを、実感として受けとめられるようになりました。
《沈黙なくしては、ことばは存在しない。もし、ことばに沈黙の背景がなければ、ことばはその深みを失ってしまうであろう。》
マックス・ピカートの「沈黙の世界」を反芻しながら、詩集名に「こおろぎ」を選びました。
(「あとがき」より)
目次
- 大寒の日
- 桜の別れ
- 彼岸の海
- 幻の海
- 葉桜
- 紫陽花
- 藤村墓前祭
- 横浜史跡散策
- 夕映え
- その時
- 闇のドラマ
- 露が光る
- こおろぎ
- 小夜子曼陀羅
- 嵐のあと
- 一九八二年四旬節
- 光の春
- さようなら
- 一九八四年夏
- 酷暑
- 花吹雪
- 一九八五年八月
- ありがとう
- 氷壁
あとがき