1941年5月、スメル書房から刊行された千葉泰子の軍国詩集。装幀は石井柏亭。
軍靴の響について
兵隊さん
皇國の爲に勇ましく大陸に亦内地に御奮鬪の兵隊さん。本富に御苦勞樣でございます。私も女學校時代の二ヶ年を大陸のはしつこの大連で送りました。その爲か一層兵さんがおなつかしく思はれるのでございます。私はどうかして大好きな兵隊さんを御慰問したいと思ひました。でも一少女の私には心で思ふ事の萬分の一も實行出來ず本當に情けなく思って居りました。何か私の力で出來る事は?と一生懸命考へた末ふと思ひっいたのが軍歌です。毎日の新聞やニユースで見聞きした兵隊さん達の勇ましい尊いお話に心から感激した私は拙い乍ら眞心こめて數々の軍詩を作詩致しました。そして今度スメル書房主櫻井豐氏の御好意により「軍靴の響」と言ふ單行本として發行の光榮に浴する事の出來ましたのはひとへに兵隊さん達の御熱心なる御支援と御親切な御教育のおかげと心からお申し上げる次第でございます。
「軍靴の響」と言ふ題は私が撰びました。兵隊さんがたくましい軍靴で大陸の戰野を一歩々々ふみしめて征かれる樣私は拙い乍ら一本のペンで一字々々を植ゑつける樣な氣持で軍歌を作詩致しました。兵隊さんの尊い御苦勞に少しでも私の詩が通じてくれゝばと祈りながら作詩致しました。兵隊さん。遠い戰地で彈雨の中に破邪の劍を執られる兵隊さん。又滿州の生命線を守る關東軍の兵隊さん。内地の留守隊に御勤務の兵隊さん。尊い白衣の兵隊さん。武動輝く歸還勇士の皆樣。
皆樣のおかげで生れまた「軍靴の響」を前にして私は皆樣の御武運長久と御多幸をお祈りして止みません。今後も益々勉強してもつとつと立派な軍詩を作詩し皆樣をお慰めしたいと思ひます。又護國英靈と化された兵隊さんにこの「軍靴の響」をお供えして心から御冥をお前申し上げます。
では兵隊さん。お互に一生懸命がん張りませう。お國の爲に……
大疑簡單でございますが一言御挨拶申し上げました。では さやうなら。小倉にて千葉泰子
皇國の兵隊さんへ
目次
序・陸軍省つはもの編輯部
軍靴の響について・千葉泰子
- 軍旗
- 戎衣
- 軍靴の泥
- 傷兵だより
- 黒龍江岸に唄ふ
- 古兵殿
- ニツコリ笑つて
- 戰場の花
- さらばまさきく
- 星の生徒の唄へる
- 巣立つ日近く
- 少年飛行兵の唄
- 姑娘哀歌
- 戰線盂蘭盆會
- 山砲兵の唄
- LGの唄
- 衞生兵の唄
- 陸軍墓地
- 病院自動車
- さらば戰線
- 病棟の月
- 白衣淋しく
- 傷痍のつはもの
- 思ひ出の宵待草
- 歸らぬつはもの
- 遺骨抱きて
- 亡き母を慕ふ
- 國境守備兵行進曲
- 金州の丘
- 初年兵の唄
- 二年兵の唄
- 馬蹄の轟
- 古戰場に祈る
- 空のつはもの
- 陣中日記
- たよりを待つ
- 妻の便り
- つはもの
- いとしの愛機
- 若鷲の唄
- 殉國荒鷲の英靈に捧ぐ
- 整備兵の唄(銀翼に祈る)
- 雨の海峽
- 南のつはもの
- 敵前上陸
- クリークの人柱
- 遺骨と共に
- 荒鷲の父
- 手紙とつはもの
- 特務兵の唄
- 無名戰士の墓
- 月下の戰線
- 征空譜
- 攻撃前夜
- 鐵牛進發
- 突撃譜
- 敵殱滅
- 凱歌
- 満洲野陽落ちて
- 朗らかつはもの
- 輸送部隊の唄
- 野砲兵の唄
- 戰友だもの
- 美はしき母と子
- ロバの小鈴
- 百日祈願(忠靈塔にて)
- 南嶺戰蹟を訪ふ
- 雪と守備兵
- いとしの愛機愛馬
- ペチカ會議
- 新春の歩哨
- 東滿の騎馬兵
- アカシヤと戰友
- 鈴蘭姑娘
- 戰線宵待草
- アカシヤ哀歌
- 國境の野萩
- 鐵道守備兵の唄
- 鍬のつはもの(現地除隊勇士に捧ぐ)
- 聖旅順
- 苦力の唄
- 院外散歩
- 留守隊勤務の勇士に捧ぐ
- つはもの通信
- 僕等の隊長
- 父樣だより
- 征けよ郷土の健男兒
- 中村少佐殿の出征を送りて
- 英靈を送る
- 野戰郵便局員勇士に捧ぐ
- 雁をながめて
- 愛馬よ眠れ
- 白襷
- さやうなら
- 護國の捨石
- 父樣だより
- お守りとつはもの
- 雁が行く
- 絽ざし
- たそがれのアムール江
- 長城に立つ
- 戰野夜ふけて
- 愛馬よさらば
- 戰線子守り唄
- 負傷もいえて
- 慰問文
- 大村隊の唄
- ああ爾靈山
- 若き士官を讃へて
軍靴の響出版について・櫻井豐