1980年7月、思潮社から刊行された鈴木志郎康の詩論・詩人論集。装幀は飯田善國。
この本には、一九七七年の後半から一九八〇年の初頭まで書かれた文章の中から、詩と詩人について書かれたものを選んだ。この間七八年と七九年の二年間、私は読売新聞の詩時評を担当したので、かなりの数の詩集を読むことになった。現在発行される詩集の数は相当に多い。売れるから発行されるのではなく、表現意欲とその能力を持った人の数が多いからである。しかし、それらの数多い詩集のすべてが、詩を書いた人への同情を抜きにして、読みごたえあるものかというと、私にはそういえない気がする。読みごたえのある詩集というのは数少い。時評するに当って、私はその読みごたえのあるというところを自分なりに考えてみたつもりである。その結果か、これらの文章を読みかえしてみると、現代詩的常識というようなものになっている。評価するとか、問題点を引き出すとかという本にはなっていない。詩人たちが実らせた穂先の実を、すずめのようにちょんちょんとついばんだようなものだ。こういう詩への接し方は時代的ともいえるだろう。
(「あとがき」より)
目次
1
- 最近の最近
- 共有するものを求めて
- 三十人の新しい詩人たちを検討し批判する
- 大衆情況に全身を晒される詩人たち
- 身振り・身辺・身体
2
詩集時評 一九七九・一―一九七九・三
- 1会田綱雄の石原吉郎追悼詩
- 2石原吉郎遺稿詩集『満月をしも』
- 3喜谷繁暉詩集『三輪山』
- 4白石かずこ詩集『一艘のカヌー、未来へ戻る』
- 5北村太郎詩集『あかつき闇』
- 6入沢康夫詩集『かって座亜謙什と名乗った人への九連の散文詩』
- 7石毛拓郎詩集『笑いと身体』
- 8吉本隆明『戦後詩史論』
- 9岩田宏『いただきまする』
- 10女性詩人たち
- 11作品の言葉と現実
- 12清水哲男の「連作・東京」
- 13入沢康夫の「連作・牛の首のある三十の情景」
- 14三上寛詩集『お父さんが見た海』
- 15吉増剛造詩集『熱風』
- 16黒田喜夫詩集『不婦郷』
- 17二十代詩人の詩集
- 18末繁博一詩集『家その前後』
- 19山本博道と泉谷明の詩集
- 20中江俊夫詩集『不作法者』
- 21中桐雅夫詩集『会社の人事』
- 22『清水昶詩集』
- 23飯田善國詩集『ナンシーの鎧』
- 24「現在の詩にもの申す」
- 25内面的文脈の破算へ
3
- 宮沢賢治「疾中」詩篇に立ち止る
- 中原中也の詩を読んで、抒情は駄目だが、観照はよい、と思った
- 立原道造・転倒した自然
- 高見順・生命の現在を掬い取る詩
- 金子光晴・自分への執着
- 黒田三郎・生活と意識を結ぶところに詩を拓いた人
- 長谷川龍生・言葉の原始性を生きる詩人
- 飯島耕一・戦後精神の建て直し
- 岩田宏さんの前衛性は自我の音楽的自覚にある
- 谷川俊太郎・隠れたものと言葉
- 正津勉・事実を突き付ける詩人
あとがき