1954年8月、書肆ユリイカから刊行された門田育郎の詩集。
序文
門田君の詩を一読した。
宇宙の胎動、物と人の生成などに関する体臭は、僕らの同時代の人達の宇宙感と宵壌のへだたりがある。
宇宙に対する人間の立場は、僕らの時代並びに戦争前までの人たちの考の中では、どうしても服従的、功利的、合理化的ならざるをえなかった。ヒューマニストもユムミュニストもその例外ではない。
しかし、門田君の時代の人は、もっと本質的、現実的とならざるをえない。門田君の探究はそういふ意味で即時代的であるとともに、超時代的でもある。
人間の考は根本から出発し直さなければならない。
門田君はさういふ仕事をしてみる一人として、詩がうまいとか、完成してゐるとかいふ標準からは、最初から外れてあるやうだ。
これは僕の我田引水的な思ひすぎかしら。
作者のことば
芸術の中心に詩をみつけるという事は非常に困難な仕事であると、私は何時も考えています。
ある時はあせってみたり、又ある時は失望してみたり、私なぞのような者が詩集を発刊するなんて、今もってその決心の程を不思議に思っています。
今、ふりかえってみますと自分では仕事をしたつもりの事が、その作品が、未完成のまま未来に多くの問題を残してしまいました。
そしてそのようなまま出版する事になった事も読者の皆様に深く御詫び申し上げます。
だが勝手な事を言わして戴けば
「何とかしなくちゃならない。何とかして私自身が存在したい」。
その事の為に私は書き続けてまいりました。
その是非は皆様、及びこれからの私の詩歴の厳正な審判を受ける事でしょう。
ただ私の前にある事は、それらの問題の解決の為に更に更に仕事をおし進めてゆかなければならないという事だけです。
私をここ迄お導き下さった日比野士朗先生、金子光晴先生、石井健吉先生はじめ、援助してくれた多くの方々に心からお礼を申し上げます。昭和二十九年梅雨の日
故郷にて 作者記す
目次
序 金子光晴
- 漸進
- 日本雨期
- 肉体
- ある牽引
- 存在
- 断層
- 終末
- 風
- 冬霧
- 愛
- 雨
- 北国
- 深い谷間
- 重い流れの中に
- 故鄉
- 夏
- 出發
- 白磁
- 幸福
- あるこころ
- 解放
- 煉獄
- 失落の花園
- 蛙声
- 離別
- 花びら
- 夜のみだれ
- 冬木立
- 人類最初の
- 空白
- 繁殖
- 反問
- 失落の湖
跋 石井健吉
作者のことば