1956年12月、理論社から刊行された小野十三郎による詩論・現代詩入門書。「私の大学・文学の教室」シリーズの5。
私は、すでにこれまでに、詩の手びきのような本を三冊書いています。この本もいくらかそういうおもむきがないことはありませんが、ここでは、既刊の本で浅くしかふれ得なかった詩を支えている基本的な問題にやや深く立ちいって、詩の味わい方、作り方などにかんすることがらよりも、各項目が示すように、認識としての詩について、私の平素考えていることを述べてみました。すなわち、詩作とはひとつの認識であり、感性の習錬であることをあきらかにしようとするのが、この本を書いた目的であります。したがって、一つ一つの項目については、他の講座本などに書いたことと多少重複するところがありますけれども、いずれも文章のスタイルを改めるとともに、全体として私の意図がよくとおるように、各章の配列、進行に苦心しました。その点で、現代詩にかんして私の書いた本のなかではいちばんよく組織された本になったと思います。むろん、現代詩の問題は、これでもってつくされたというわけではありません。いろいろまだ問題は残されています。しかし、おそらくこの種の本としては、これが私の最後の本となるでしょう。
私は、詩というものが、大衆の心のなかにある状況はおどろくほど単純なものだと思っていますが、その単純さこそさまざまな要素から成り立っている複合体であることを、この本を書いているときに、あらためて痛感しました。この偉大な単純さといいますか、素朴さといいますか、その証しに、この本に引用した傾向の異なるさまざまな作品にたいする私の解説と批評が最後に役立ってくれることをのぞみます。
中途からとびとびに読まずに、まず第一章「詩は習慣である」から順を追って読んで下さい。
(「まえがき」より)
目次
まえがき
- Ⅰ 詩は習慣である
- Ⅱ 詩を批評として感知する力
- Ⅲ 詩と生活記録
- Ⅳ 韻文の殻をぬごう
- Ⅴ 詩と短歌
- Ⅵ 詩は散文のなかにもある
- Ⅶ 詩と「うたごえ」運動
- Ⅷ 書くということの意味
- Ⅸ 子どもの詩について
- Ⅹ イメージとリズム
- Ⅺ 私の詩作法
- Ⅻ 人間改造の道