女乗りの自転車と黒い診察鞄 細野豊詩集

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 2012年10月、土曜美術出版販売から刊行された細野豊(1936~)の第4詩集。装幀は長島弘幸。

 

 勤め人としての束縛から解放されて、自由の身になったら、メキシコの北の端、アメリカ合衆国との国境の町メヒカリかシウダー・ファーレスあたりから、バスを乗り継いで一路南を目指し、南米大陸の南端まで独りの旅をしたい、または、チェ・ゲバラがやったように、南から北上してメキシコまで行きたい、という望みを持ちつづけているが、定年で足を洗ってから二十年近く経った今も望みは実現していない。
 いつの間にか、もう一度この世に生まれ変わるときあるいは来世で、また日本の男に生まれ、武士道と任侠の心を持つ旅廻りの役者になりたいなどと、体のいい逃げ口上を思いつくようになった。考えてみれば、二十歳代の終りころから通算十七年余り、開発途上国援助の仕事でラテンアメリカ諸国(メキシコ、ボリビア、ブラジル)に滞在したほか、世界中の三十数ヶ国へ数十回もの旅をした。だから、日本政府という看板を背負っていなかったならば、正真正銘の旅廻りの役者に近い半生だったのかも知れない。
 今回の詩集は、そんなわたしが漂泊の果てにたどり着いた三つのテーマを扱っている。ひとつは、わたしの生命の根源である母とその他の肉親、そして生まれ育った横浜市郊外のふるさと。二番目は、生命の源と密接に関わっているエロティシズムとその裏に隠されているシュルレアリスム。そして、三番目は、ふるさとにまつわるしがらみから逃れるためのラテンアメリカへの脱出ととどのつまりのふるさと回帰である。
 十年振りのこの第四詩集(一九九九年にメキシコ首都圏大学から出版したスペイン語詩集を含めれば五冊目)刊行にあたっては、詩友、中上哲夫さんに帯文をお願いするとともに貴重なアドヴァイス等をいただいた。
(「あとがき」より 

 

目次

Ⅰ 母・遠い情景

  • 遠い情景
  • 母の赤いほっぺた
  • コスモスの野にうずくまる姉
  • 母も姉も
  • 母よふるさとへ帰ろう
  • 母の死
  • 黄泉からの帰宅
  • 盂蘭盆

Ⅱ 花・ふるさと

  • 花・もうひとつの顔
  • 花に顔を
  • 花を吸う
  • 両脚の間を川が流れ
  • 夏の記憶
  • ふるさと
  • 八月の海辺
  • 仏向町(ぶっこうちょう)
  • お花畑を滑るように

Ⅲ 中南米・はるかな空

  • 空席
  • 灼熱のリオデジャネイロ
  • つかの間の
  • 死者たちと睦み合う夜
  • アンデス高原に置き忘れたリュック
  • できることなら象のように
  • 漂泊の空

あとがき


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