青山孝志詩集 青山孝志

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 1968年9月、思潮社から刊行された青山孝志の遺稿詩集。付録栞は大木直太郎、臼井喜之介、安倍宙之助、大木豊、中田耕治、沢田賢二。

 

あとがき 諏訪優


 青山孝志詩集のあとがきとして、いまわたしに、美しい一篇の追悼の詩を書くことができたならば、おそらくそれがもっともふさわしい。

 さまざまな思い出と未練とが、わたしの中に浮かんでは消え、森の向うの雲のように、またやってきては心の湖の上に影を落す。

 それで、わたしは、青山さんへの、わたしのささやかな別れの詩すら書けないでいる。


 遠雷がする しきりにする 死がまたこっそりと積まれはじめる 僕のこころの片隅で はやいなあ 雲が はやいなあ 雲が  (散歩)

 

 とおい少年の日に、あなたはすでに、いつかこんな日のあることを予感していたようだった――わたしがまだ、感傷的に愛や死をもてあそんでいたその時期に――。

 それにしても、なんとやさしい詩のかずかずだろうか。

 雪の上の、小鳥たちの足跡のような、不思議な細かい字で、あなたは天使のささやきに似た美しい詩を書いた。

 

 ああ いま なにか 清らかに 昇天するものが欲しい! (昇天)

 

 と。

 それはときに機知も交えた澄みきった抒情詩であった。もう、あなたのような抒情詩を書ける詩人はいない。

 かって、わたしたちは美しい小雑誌をつくりたいと思っていた。

 青山さん、吉本隆明さん、それにわたし、ときどき中田耕治さんや鈴木亨さんなども寄稿してくれた、今から見れば不思議な取り合わせの詩誌ができるについて、誌名はあなたの希望で「聖家族」となり、みんなの中で最年少のわたしが編集人にさせられた。

 思いおこすあの頃、わたしの詩のあるものは、あなたの詩から学んだものであり、その頃わたしは、あなたの詩の跡をなぞっていたとすらいえる。

 それらのなつかしい詩が、あなたの死後、沢田賢二さんの努力と、あなたの友人たち、中田威夫さんや多岐淳さん、久米亭さん荒宗一さんの協力で、こうしてここにまとめられた。

 あなたは大きな詩集など好きではなく、ひとりからひとりの手へ、そっと手渡されるような、なべて小さくて美しいものを好んだ。

 わたしとふたりの詩を印刷したカードをつくったり、羽のように軽い詩集「MADRIGAL」をつくったのもそれだった。「MADRIGAL」の扉に、あなたは”夜の詩人へ”と題する四行の詩を書いて、その一冊をわたしにくれた。

 明かるい、風と光にみちた詩を書くあなたは、いつも憂うつな少年であったわたしのことを夜の詩人と呼んでいたのである。

 小詩集「MADRIGAL」は、とっさにはわたしの手もとにしかなかったらしく、通夜の晩、わたしはその、わたしがたからもののようにして持っていた青山孝志詩集「MADRIGAL」を、あなたの霊前に捧げた。

 病床から元気のいいハガキがきたのはつい先だってのことだったのに――ものいわぬあなたがそこにいた。

 ハガキには、あなたのたくさんの夢が書かれていて、わたしはあなたの、詩への情熱をつよく感じ、あなたが何度目かの恢復期を迎えたのだと錯覚したものだった。

 あなたはいつか「恢復期」という詩で書いたことがあった。


 夢を追ふ、熱砂の上で愛を願ふるに似て、かすかな恢復期のこの日頃やがて襲ひくる炎の時の語らひに (……ひとり離れ)

 

 あなたの炎は、消えずに燃え続け、いつも美しい夢を追って清らかであったのだ。わたしにはあなたの愛がよくわかる。そしてあなたの愛がよくわかる。


 今こそ、咲(ひら)く花見抜くが如き、いとしきひとの蒼き瞳(め)にみいられながら、籠に憩ふ蝶のやうに、光と翳とに飾られて (ひとりはひとりを待ちに待った……)

 

 わたしは、弱っていたあなたに、わたしの血を捧げられなかったことを心残りに思っている。

 それと、わたしが今、いつか少年の日に、あなたとふたりで語りあい、あこがれたような、やっと見つけたそんな愛の只中にあって、書きはじめたいくつかの愛の詩篇を、やさしい愛の詩人であり、兄のようであったあなたに、読んでもらえなかったことを心残りに思っている。

 

一九六八年六月二九日
(「あとがき/諏訪優」より)

 

目次

少年の手帖

  • 瞳昇天
  • あなたを待つ
  • 少年の手帖
  • 厄介な恋人と僕は歩いてゐる
  • そして夢みる
  • 散歩

ETUDE

  • 春の序曲
  • 憩らひ
  • おもひで
  • ハンモックに寄せるソネット
  •  Ⅰ 春の乙女に
  •  Ⅱ 夏の夫人に
  • 風の訪れ
  • 恢復期
  • 別れのあとに

夏の花の村にて

  • プロローグ
  • Ⅰ お前の麦藁帽子
  • Ⅱ 水車小屋の附近
  • Ⅲ 泉の精
  • Ⅳ 夕暮の一とき

MADRIGAL

  • 冬空に寄せてうたふ私の……
  • はじめての旅のひと日に
  • 谷川を渡ったときの……
  • 子守唄

私の人生の庭

  • 私の人生の庭
  • フランシス・ジャムへの頌

媚薬

  • 媚薬
  • 忠告
  • 椅子

薔薇のそばで書く

  • 恋人たちよ
  • すこし乱暴な恋の歌
  • 夜に
  • 薔薇のそばで書く
  • あなたに贈る手袋にしのばせた紙片に
  • ともすれば……

お話

悲歌

  • 四行序詞
  • エピローグ

微風・雨期

  • 微風
  • 雨期

恋歌

  • ある女が歌った
  • ある男が歌った

破調のあるソネット

  • 渇水
  • 小鳥の死に……
  • inNight
  • 雪国

近作拾遺集

  • 決意
  • DoneJuan
  • ジベールとすごす日曜日
  • あやふい時間

附録・少女のための詩

  • 乙女の歌
  • 羊飼いの娘

発表詩誌一覧表
青山孝志年譜
あとがき 諏訪優

 

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