1984年8月、詩学社から刊行された大西美千代(1952~)の第2詩集。装幀は伊藤花。
ワイルドの「幸福な王子」をはじめて読んだ時、体がすっかり溶かされて心だけが残ったらたまらないと思った。悲しいものを見てしまった心なら、まっ先に溶かされるべきであると今でも思う。
今、生きている私の中に、ひとつふたつ溶かされない固まりのあることを自覚する。
詩を書くことで、心の中に意識しないで存在しているものが、疑って固まっていく。たかが<わたくし>と思う。その<わたくし>の中で固まり固まり、ついにひとつの鉛のようになったものを、私は仮に詩集と名づけようと思う。
二つめの鉛である。
そしてこの鉛はすでにわたくしではない。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
- 羊齒
- 自足
- 肩ほどの位置から
- 私の空腹
- 増殖
- 骨の解読
- 鏡に会いに
- 猫の死体ほどの
- 海へ
- 街路樹の街
- 箱
- 地下鉄
- 魔物考
- 一枚の和紙のように
Ⅱ
- さくらの森
- 春浅く
- 路地のある風景1
- 路地のある風景2
- 雨おんな
- 衣更え
- たまごをゆでる
- 萩の誤算
- 無花果
- 螺子
- この町から
あとがき