1979年5月、花神社から刊行された石垣りんの第3詩集。装幀は吉岡実。カットは難波淳郎。
二冊目の詩集『表札など』を出したのが一九六八年一二月だったので、ちょうど十年を過ぎたことになります。
その間に、少女のころ採用された職場を定年退職しております。長いとも短いともいえない不思議な歳月をかえりみるとき、ただ自分が生きるのに精一杯で、他者のしあわせに加担することなく、そればかりか反対の方に加担してきたのではないかと、あまりに遅く気付かされています。何に向かってか、ゆるしを乞わずにはいられません。
『表札など』の装幀を引き受けて下さった吉岡さんは、ふだん往き来もない私の願いをこの度も聞き入れて下さいました。大久保さんに詩集を出してもらう約束をした日からも八年は経っております。
私は夢中でした。夢中で働いてきたのか、夢中で怠けてきたのかわかりません。詩はその余のこと。その余のことがわずかに私を証明してくれているようでもあります。
この、手に乗るほどの証明書を差し出すことで、ご覧下さる方のこころの門を通していただけるでしょうか。
(「あとがき」より)
目次
- 朝のパン
- 洗たく物
- 村
- 儀式
- 鬼籍
- きのうの顔
- 新年の食卓
- 鏡
- 海
- 夏の本
- 略歴
- 行く
- 木
- わたくしをそそぐ
- 定年
- 白い猫
- 種子
- 遙拝
- 町
- 水槽
- モン
- へんなオルゴール
- 追悼
- 神楽坂
- まこちゃんが死んだ日
- 空をかついで
- 大根
- 旅
- 着物
- 池
- ミサ曲
- ケムリの道
- 劇評
- 信用
- 情況
- 水
- 別れ
- 福島潟
- 地平線
- 夕鶴
- 風俗
- 十三夜
- 河口
- 荷
- 式のあとで
- 女
- 子守唄
あとがき