1980年3月、深夜叢書社から刊行された倉田比羽子の第2詩集。装幀は高梨豊。
もう十何年も昔のことになります。その頃、詩人=「革命家」である、と信じていました。何やらこうして言葉で書いてしまうと大仰しいのですが、このふたつの言葉は若いわたしにとってほかの何よりも燦然と輝いていたものです。だから、という訳でもないのでしょうが、「詩を書く」などという畏れある行為(おこない)を自分に易々と許す気にもなれなかったものです。それが偶然にも事の勢いで書いてしまったのがはじまりとなって、恐る恐る畏れあることに手をおろしていく、その極みに憑依されてしまったのでしょう。いまもこのふたつの言葉は見えない糸でつながっているようですが、このごろはわたしの頭の中へ遡行する企みとしてひかりを奪っているようにも思います。
人間はそれなり「自然」にちかいものです。生まれそして消滅していく、限界の幅で括くられているわけですが、言葉は「自然」ではないのですからそれを使っていく人間が拮抗するには言葉を踏み潰していくしかない、つめたい感じに陥っています。どうやら明かるさ、を拒んだ「詩を書く」という観念がわたしの頭の中の独房、に住まっているようです。
(「あとがき」より)
目次
- 闇の幅
- 空へ
- 鳥影
- 密室
- 鏡の中
- 腋の下
- 夜
- 背骨と壁
- 家
- 移動
- 外では風が吹いています
- 鞄
- 穴
- 鉛の橋
- 守宮
- 時間割
- 贈り物
- 川
- 夏
- 凝視
- 熱風
- 微風
あとがき