人間地図  埴原一亟

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 1969年3月、創思社から刊行された埴原一亟の掌編小説集。全100話。装幀は前川直。

 

 私は昭和二十年から三年間、南カラフトでソ班の新聞社で働いていました。そのとき、チェホフの短篇ものをロシヤ人と一緒に翻訳しました。そのなかに「デブとヤセッポチ」という四、五枚のものを訳したことがあります。ツアー時代の官僚をたくみに風刺した作品で私の胸をうちました。日本に帰ってきてからも、このようなものを書いてみたいとひそかに願っていました。
 この「人間地図」はその長いあいだの願いをこめて書いたものです。原稿用紙四枚のそれぞれの短篇はそれ自身で独立した一つの作品です。それでも一本一本の木が独立してそれぞれの個性と風格をもっていても、それがたくさん集って森や林となるように、この「人間地図」もそれぞれの短篇の集りですが一つの体をなした長篇として私は認めています。
 ”文芸復興”誌に三十篇ほど連載されたころ、貶すすこと多くはめることの少ない添田知道さんが十篇のうち一つぐらいはい、ものがあるねと言われました。つゞいて大阪在住の作家で桂春団治をかいた富士正晴さんから、これは珍重すべき作品と思いました、なぜ日本の作家はこういう作品をあまり皆が書かないのはどうしたことかと思います、というお端書をいたゞきました。私は力を得て1年がかりで書きあげました。それから半年ほどして一冊に纏めようと読みかえしてみますと多くの不満が湧きましたので昨年の晩秋に信州の山の宿にこもり新しい作品を書き加え、不満な作品を切り捨てたりして、どうやら纏めることができまし
た。
(「あとがき」より)



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