自然主義研究 吉田精一

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 1981年4月、桜楓社から刊行された吉田精一(1908~1984)の評論集。吉田清一著作集第七巻。

 

本巻は、大きく四部に分けられる。その書誌をはじめに確かめておこう。最初の「自然主義文学運動の概観」は、東京堂刊『自然主義の研究』(上巻=昭8・1・8下巻=昭3・1・3)の下巻の巻頭に位置する同題の第四部の全文である。章立ては底本を踏襲し、引用文も原著を生かしているが、引用文献の頁数や、各章末に付されていた参考文献名は省略した。
次に「島村抱月」は、至文堂刊『近代文芸評論史明治篇』(昭3・2・3)の第八章「自然主義文学論」の2「島村抱月」を底本とする。この至文堂の書物は、雑誌「国文学解釈と鑑賞」に昭和三十七年五月から四十九年三月まで、十二年間にわたって断続連載された「評論の系譜」をもとにしているが、「島村抱月」は同誌の昭和四十七年六月号から十月号まで、五回にわたる連載であった。至文堂の書物では、その五回を五つの節として、それぞれの節に標題をつけ、また本文や注に手が加えられた。本巻では、本文は底本どおりとし、注を省略している。
次に、本巻では岩野泡鳴を三つの章で構成した。第一章の1~2の節は、『自然主義の研究』上巻の第二部「自然主義文学の出発」の第五章「岩野泡鳴C」の1~2。3~5の節は、同下巻の第六部「自然主義

学の確立と発展C」の第八章「岩野泡鳴U」の1~3。6~7の節は、同下巻の第九部「自然主義終結」の第三章「岩野泡鳴日」の1~2。第二章は、同下巻の第七部「自然主義の評論」の第五章「岩野泡鳴の評論」の全文で、二つの節は原著をふまえている。第三章は、筑摩書房刊『現代文学大系』第五巻「徳富蘆花・木下尚江・岩野泡鳴集」(昭4・4・M)の月報掲載文「『日本主義』と泡鳴」の全文である。なお、『自然主義の研究』に付されていた参考文献名は省略した。「最後の「自然主義反自然主義」は、河出書房刊『現代文学論大系』第二巻「自然主義反自然主義」(昭3・1・3)の巻末「解説」に拠り、原文をそのまま採録した。
「このような典拠からも明らかなように、本巻は、著者の学問研究の代表的な業績とされる自然主義研究の、そのエッセンスを抜き出して、著者の卓越した自然主義研究の面目と意義を伝える巻になっている。
むろん、大著『自然主義の研究』に凝縮され、その後も進展を示している著者の自然主義研究の全貌が、この巻だけで容易につかめるというのではない。たとえば、厳撰された本著作集においても、田山花袋徳田秋声に関しては、この二作家のものだけで一冊にまとめて余りある著者の仕事の蓄積がある。『花袋・秋声』を収めた第八巻は、著者の自然主義研究を知るうえで必見の巻になっているし、本巻と併せて、著者の自然主義研究をいっそう立体的に受けとめていくのに役立つだろう。だが、第八巻を併せても、なお全貌でないのは当然であって、そのことは逆に、全貌ではなく著者の仕事の基本的な意味内容を、それぞれの巻をつうじて見出していくことが出来るという示唆を、導くものだと思われる。そして、その要請に、本巻は十分に応えてくれるはずである。

(「解説/畑有三」より)

 

目次

Ⅰ 自然主義文学運動の概観

Ⅱ 島村抱月
一 島村抱月

Ⅲ 岩野泡鳴
一 岩野泡鳴

  • 1泡鳴の出発
  • 2泡鳴の詩業
  • 3「神秘的半獣主義」
  • 4小説家としての出発
  • 5泡鳴五部作
  • 6泡鳴の日本主義
  • 7有情滑稽物と泡鳴文学の特異性

二 文芸評論家としての泡鳴

  • 1「新自然主義」より「悲痛の哲理」へ
  • 2一元描写論

三「日本主義」と泡鳴

Ⅳ 自然主義の評論

第七巻自然主義研究抱月・泡鳴あとがき
解説 畑有三

 

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