2018年7月、編集工房ノアから刊行された以倉紘平(1940~)のエッセイ集。装画作品は伊藤尚子、装幀は森本良成。
この散文集は、私の所属している詩誌「Lesalizés」(アリゼ)に設けられている(船便り〉というミニエッセイ欄に、自由気ままに書き続けた文章を、まとめたものである。
仏蘭西語で<貿易風>という意味を持つアリゼは、一九八七年九月の創刊で、今年二〇一七年の秋に181号を出した。一年六回の発行で、なんと三十年経ったことになる。赤ん坊が生まれて三十歳になる時間が過ぎたと思うと、感無量である。四十七歳から七十七歳の今日まで、人生の盛年期を、このアリゼ号と共に航海したことになる。
その間に、私は、巻末の追悼文に記したように七人の同人の詩人を亡くした。彼らの作品は、彼らの起伏の多い人生と共に、まことの詩そのものであったと思う。呼びかけると、今も懐かしい声と表情が返ってくるのである。
さらに、創刊号から、極めて親しくお付き合い頂いた、敬愛する先輩詩人たち、嵯峨信之、安西均、大野新、角田清文各氏らも、いつの間にか、次々未知の寄港地で下船、新しい世界へ旅立たれた。私にとって、人間がこの世にあることの謎は懐かしさと共に、深まるばかりである。
この散文集は、『気まぐれなペン』と題したが、実は詩作品と同じ情熱、同じ熱量を注いで書いたものである。厳しくもあった先輩詩人たちの目をたえず意識していたからに相違ない。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
- 「アリゼ」創刊にあたって
- 「アリゼ」の船出
- 朝へのあこがれ
- ぼくにとっての「夜学生」
- 長兄の入隊
- 蕪村<十宜図>
- ゴールデンウィーク
- 予知能力
- ドイツ語のStreber
- 釜が崎暴動
- 阿部昭、開高健、井上靖
- 眼鏡
- 兄の歌
- セネカの『人生の短さについて』
- 夜学一年生の人気者
- 長塚節『土』との縁
- 父親の孤独
- 明治の文人
- 『武蔵野』
- 阿部昭から国木田独歩を読む
- 作詞の仕事
- 阿部家の墓
- 夜学生の変質
- 私の夏
- 近所の小学校
- 見ていないものを見させること
- 地震の日
- 鑑別所から出てきた少年
- 現代の<軽み>
- バリ島の美術館
- 非常勤講師をしている某私大では
- 大阪府刀根山養護学校
- 文章の魅力
- 私の眼鏡
- テープ雑誌<こうせき>
- 夙川の桜
- 江藤淳『南洲残影』
- 『墓碑銘』を読んで
- 嵯峨さんの将棋
- 新しい職場
- 独立自尊の精神
- 嵯峨さんの手紙
- 夜学生Aの場合
- 理念のきしみ
- 母親の死
- 江藤淳氏の死
- 後藤明生氏、幻想喜劇派の再評価
- 要は<私〉の質である
- 神々のいます国
- 想像力の大切さ
- 角田清文氏の<想像力>
- プシュパ・ブリシュティ
- 江藤淳『昭和の文人』
- 一九九〇年代の変化
- 戦後日本の教育の再考
- 戦後教育の一期生
- 伊藤桂一氏の戦争観
- 山田耕筰の「この道」
- 学生たちの詩に希望
- 嵯峨さんのこと
- 優秀作品
- 大阪文学館
- <永遠>の時間
- 西日本ゼミナール
- 水上勉の良寛さん
- 特攻隊員の写真
- 「ヨン様」騒動
- オレオレ詐欺
- <調べて>書く詩
- 英国人とテレビ
- カラオケ三昧
- マンフェ・フェスティバル
- 五木寛之氏の講演を聴いて
- 蕪村「澱河歌」新種
- 野球世界一の新聞報道
- 三好達治の「雪」
- 第29回山之口獏賞
- <記号詩>への危惧
- 河内の国磯長村
- 内面への旅
- 沙羅再び
- 若冲展を観て
- 沖縄の風景
- 名編集者
- 舎弟の面目
- 良寛さん
- ある夜学生
- 木津川計さんと「夜学生」
- 若い頃の読書
- 雨晴(あまはらし)という駅
- 邪悪なもの
- 笠智衆のお孫さん
- イヴ・ボンヌフォアの詩句
- 岩手詩祭に参加して
- 祝電その他
- <サーラ>再び
- 治者たるものは
- 放射線ホルミシス
- 根のあるウタ
- 既得権益
- 報道者精神
- 低量放射線(1)
- 低量放射線(2)
- 杉山さんのこと
- 大切な言葉
- 三好達治の批評文
- 大阪倶楽部
- 詩人の号泣
- 歴史の切断
- 青山繁晴さん
- 雑感
- 拉致事件について思うこと
- 店名
- 吉野山――回想の嵯峨信之
- 地湧菩薩
- 恵隆之介著『海の武士道』を下敷きに
- マレビト高倉健さん追悼
- 涅槃経について
- 若い人の給料
- 私の雑記帳(一九八三年八月某日)再読
- 周恩来総理の手
- 与謝野晶子の絶筆
- 再び与謝野晶子から
- 谷川さんのエスプリ
- 深い物語、深い言葉
- 出直し
- <笑ひこける>神々
- 越国・武人(もののふ)の詩人
- 大峯あきら氏の講演
- 肝(チム)どう間(マ)どう
- 詩人と後世
Ⅱ
- 過ぎゆく日
- <沙羅>という語の恩寵
- 大石直樹『八重山讃歌』賛――第31回山之口獏賞受賞
- 木津川計さんの声
- 麗しき女よ しばし留まり給え――レイモンド・カーヴァー作「ウルワース・一九五四年」鑑賞
- 心に残る短詩――嵯峨信之の作品から
- 時代の悲しみを宿した芸術――良寛「縁つき唄」と伊東静雄
- 佐藤モニカ『サントス港』について――第40回山之口銀賞受賞
- 詩人賞の新しい風
- 『昆虫記』林堂一詩集
Ⅲ
- さようなら、阿部昭さん
- 小山しづさん追悼
- 安西均先生追悼
- 山下晴彦氏追悼――<目を開けて>見る夢の詩人
- 弔辞――丸山創さんへ
- 追悼・桃谷容子
- 追悼・小池一郎
- 追悼・角田清文
- ありがとう、湯川さん――湯川成一氏追悼
- 追悼・大野新
- 吉崎さんの美学
- 伊藤桂一氏を偲ぶ
Ⅳ
あとがき