都市の感触 日野啓三

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 1988年2月、講談社から刊行された日野啓三の短編小説集。装幀は戸田ツトム

 

 これは一九八七年新年号から十二月号まで、「一九八七年触覚的考察」というタイトルで、文芸雑誌「群像」に連載した文章である。
 本にするに当たって、総タイトルを「都市の感触」と改め、各章のタイトルを一部変えるとともに、配列を少し入れ替えた。
 総タイトルを改めたことに、とくに意味はない。短くすっきりさせただけである。いま都市を語れば、否応なく時代が現れてくるだろう。
 都市について語ったのではない。
 都市自身が語ったのだ、と思っている。
 都市そのものが自意識をもち始めたような気が強くしている。 この文章が筆者の「私」という一人称ではなく、「男」という三人称で書かれたことは、多分そのことと関係があるだろう。
「触覚」あるいは「感触」は、普通最もプリミティブな感覚とされている。いわゆる思想とかイデオロギーから最も遠いところにある。
 だがそれは最も直接的であることによって、とても抽象的なもののように思える。
 私たちは日頃、極度の強い感情を表そうとして黙って手を握る。
 それは言い難いものを表す、ないし感じとる仕方である。少なくとも、まだ名づけられていないものを。
 この頃流行の都市論とか都市観察のように、騒がしく歩きまわってはいない。私はひっそりとこれを書いた、普通の日々のなかで。
 感触だけを澄まして、気配だけを窺って。
 私のひそかな感触をとおして、都市が何かを感じ意識化しようとしていることを、信じ続けていたから。

――おまえって意外にプリミティブなやつだったんだな。
 十二ヵ月付き合ってきた「男」に、最後に私はひとことそう言ってやりたい気もしたが、黙って別れた。
 もし私がそう言ったら、あいつはきっとこう答えただろう。
(「あとがき」より)

 

目次

  • 地下のしみ
  • 白と黒
  • 閉じこめられて
  • 亀裂よ走れ
  • 見えない時代
  • 日常という夢
  • ヴューアーズ・ハイ
  • においのない風景
  • ニュートラルな音
  • めぐるもの
  • 新しい連関
  • イルカは跳んだ

あとがき


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