1989年11月、沖積舎から刊行された上田周二のエッセイ集。装幀は戸田ヒロコ。
作家は小説で、詩人は詩で勝負するのが本来のあり方であり、したがって”交遊録”と称したエッセイなどを発表したところで、所詮作品発表の合間を縫う余技にしかすぎません。ただ、自分の関係する雑誌に一、二回発表したところ、「あなたの書く小説よりも面白い」という声もあったりして、臆面もなく連載をつづけた、というのが、いつのまにかこういう形になったわけです。
詩人は、だいたい世に受け入れられるということのないのが、ふつうであり、宮沢賢治の作品が死後何十年も経って、これほど読まれるようになった、といっても、それは詩というよりも、童話作品だというほうが、ほんとうのところなのでしょう。作家も、流行作家ならばいざ知らず、書いた小説がどれほど売れて読まれるか、と見ると、今日追い風に乗っているのは、寥々たる数のものに限られるのではないでしょうか。そういう意味では、この本に登場する詩人や作家は、すべて逆風を受けている、ということにはならず、芸術に足入れしている者の、世の中での至極当たりまえのあり方ではあります。
時代の遷り変わるテンポは速いので、ここに登場する人たちの境遇や動きは、書かれた時点より多少変化を生じているわけですが、その書かれたもののなかにある真実というか、本質は、変わらないもの、というふうに見ております。
(「あとがき」より)
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あとがき