ヨット船上の殺人 C・P・スノウ/桜井益雄

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 1967年12月、弘文堂新社から刊行されたC・P・スノウのミステリー小説。翻訳は桜井益雄。画像は新装版再版。元版は1964年刊。

 

 「ヨット船上の殺人」はわたしの最初に出版された小説であった。わたしは二一歳の時、地方大学の若い男女のことについて作品を書いているので、厳密に言って、これがわたしの処女作ではなかった。まったくの偶然の一致で、たまたまわたしは当時ある地方大学の学生であった。この作品が印刷にならなかったのは、わたしには有難いことで、原稿もいまはなくなっている。
 しかし「ヨット船上の殺人」が、ふたたび版になったのをよろこんでいる。これを書いた時、わたしは二六歳であった。この本は、少なくともわたしにとって、わたしが科学者としての経歴をすて、小説を書こうと意図したきっかけとなった。このことはつねにわたしの意図していたことであって、いまこそ、始める時だと考えたのだ。
 なぜ探偵小説から始めたか、いまもわたしには分からない。その当時も分からなかったろうと思う。自分が、何が得意か分からないうちは、経験をやみくもにかぎ廻って進まなければならない作家の一人だと感じたのだろうと思う。いずれにしても、探偵小説、それもおおいに当節風に様式化された人為的な探偵小説を書いた。その当時はおおいに世に迎えられたので、科学の罠から半分逃げ出せたものの、別の罠にさそい込まれかけているのに気がついた。探偵小説作家として身を立てようとさせるあらゆる誘惑が、わたしの前にしかけられていた。
 事実、わたしには、もう一作書くつもりはなかった。書いて面白くはあるが、本来の小説を書くのとほとんど同じ時間を要する。わたしは、自分がしたいものがなんであるかをすでに知っていた。そしてまた、それには充分の余裕がないことも知っていた。よっし、別に遊べる人生がもう一つあったなら、もっと探偵小説が書きたかったろう。でもわたしは、「ヨット船上の殺人」が書かれた常套手段をつづけることはしなかったろう。わたしは本当の警察物語を試み、ストーリーをできるだけ現実的な小説に近くもっていったろう。まだ誰も、シムノンでさえも、わたしのやってみたいと思っているものをやっていない。その分野が、まだまったく開放されたままになっていると信ずる。
(「まえがき」より)

 


目次

まえがき
訳者まえがき

  • 第一章 六人の愉快な連中
  • 第二章 操縦士の死
  • 第三章 新しい犯罪
  • 第四章 ビレルとフィンボウの対面
  • 第五章 五つの鍵
  • 第六章 無気味な会合
  • 第七章 五人の憎悪
  • 第八章 ローズ・クリケット
  • 第九章 フィンボウの推理
  • 第十章 夜中の試練
  • 第十一章 不安な朝
  • 第十二章 求婚される女
  • 第十三章 薄闇の中の晩餐
  • 第十四章 ロージャの恋愛事件
  • 第十五章 川底の捜査
  • 第十六章 ビレルの報告
  • 第十七章 はかない安心
  • 第十八章 燃える炉
  • 第十九章 雨中のボート


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