1941年8月、砂子屋書房から刊行された大木実の第2詩集。画像は函欠本。
大木實の詩はその生活とそつくりな貌をしている。そして生活が いつもかりそめの屋根の下に安堵してくらしてゐるやうに、詩もま た同じのを感じてそれと一緒に居る。
大木實の中で、詩が生活したり、生活が詩を書いたりしてゐる。 この二者はまつたく一つのものの前後の姿に見える。
彼はみづからの環境への郷愁以外からは決して詩を書かない。た とへば彼が古い行李の底から思い出をとり出したとすれば、それが 彼の着物になつたり、詩になつたりする。また旅行して異土の風景を眺めても、すぐに屋根に關心をもつ。そこに住まふさまざま 活に思いを駛せる。
凡そこのやうに生活は大木實の詩にあふれるニュファンスである。けれどその爲めに謂ふところの粗雑な生活派にはならない。むしろイメエヂは沈潜し、詞はよく選ばれてゐる理由は彼の生活する精神が殆んど詩を書く氣持と同等にまで高められてあるからだ。
彼こそ嚴格な藝術派の詩人である。
(「『屋根』の著者に/丸山薫」より)
目次
1
- 屋根
- 屋根
- 朝
- 味噌汁や握り飯など
- 洋燈の灯
- 門
- 藤の花
- 花季
- 窓
- 黄昏
- 路地の子
- 母のさと
2
- 貌
- 家
- 都會薄暮
- 轉居
- 北向きの部屋
- 紺絣
- 街の雑草
3
「屋根」の著者に 丸山薫