南薫 佐藤恵美子詩集

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 1986年12月、昭森社から刊行された佐藤恵美子の第1詩集。著者自装。

 

 詩が何だかわからないまま、又、意識的に自ら遠ざけてから、何と三十余年経ってしまった。初めて詩集を出すことになりこの三十余年を想い起こし、これを青春時代と言うのかなと俄かに年の重みを感じてしまう。私にとってこの時代は詩が書けなかったのだと思う。純粋病にかかっていて自閉的な自己を饒舌体で詩らしく仕立てることしか出来なかった。現在はそれが恥部となって残っているが、純粋病がカサブタとなって落ちてしまったら、どうしてか再び詩が書きたくなった。結婚し、子供を育て、外国や地方に暮し、どうしても自分の中に捨て切れないものを見つめ乍ら、しかし決意するまでも長かった。地下水を汲み上げるという譬えでは現すことが出来ないが、もしその譬えを使うならば、今の私には縄はおそらく老朽し、バケツも酸化し、井戸穴でさえももう一度掘らねばならない苦労がある。
 昭和二十年代の終り頃、私は学生で、友人の知り合いであった深尾須磨子さんの家へ何度かおしかけてお酒を御馳走になった。興にのられると銀のフルートを吹かれ、夏の宵の大久保界隈に震えるようなその音色が流れて行った。金髪の青年の写真を飾り、与謝野晶子をたたえ、女の自立を語り、目張りを入れて美しく化粧され、私は女の人の詩の世界とはこのようなものかと圧倒され、又、自分の詩と余りにもへだたりを感じて孤独になってしまうのであった。その後「三田詩人」のつぶれる時に参画し、その時の御縁で青白き詩青年だった江森國友氏のお世話になり三十年後「南方」にめぐり会い、詩集を出す機会を漸く得たことになる。
(「あとがき」より)


目次

  • 夏さぶ
  • 夙起
  • 猫に赤い目玉の魚をやる女
  • 西には川がありや
  • 多摩川の夕方の冬の…
  • 顔の長い女たちの話
  • 晩夏
  • 七月の死
  • 私の中の黒いたまご
  • 南薫
  • 小寒

沸沸 江森國友
あとがき


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