2003年4月、思潮社から刊行された鈴木由美子(1961~)の第3詩集。第28回地球賞受賞作品。カバー写真は「水戸領図」。
日頃出不精のわたしが、何故、川をその水源から河口まで歩いてみようなどという考えを持ったのだろう。
わたしが遡ったのは〈久慈川〉という現実の川であり、〈Kujikawa〉という実在しない川である。その二つの川を歩きながら、川を遡るということは自らの魂を遡ることに他ならないことを知った。わたしは、川を下りながら常に自分の心を下っていかざるを得なかったのである。
そしてまた川を辿る旅で知ったことは、遡るにしろ下るにしろ、それは自らの魂と向かい合いながら、同時に〈非・わたくし〉とともに生きる試みであるということである、ということだ。わたしは、非・わたくし〉と旅をしなければならないのだ。わたしは〈非・わたくし〉をどのように受け入れ、どのように愛するのか。そしてやがて〈非・わたくし〉の他者性にたじろぎ、どのようにしてそれを憎むのか。そもそもわたしは、なにゆえ〈非・わたくし〉を求め、また〈非・わたくし〉から離れて一人であろうとするのだろう。
しかし、川と生とが似ているなどとは、決してわたしは言いたくはない。川は徹頭徹尾川であり、生もまたその人の生以外のものではありえない。川も生もパラレルに、かつ、どうしようもないほどの孤独さで、それぞれの流れを流れている。それ自体には、確かに何も意味はないのかもしれない。しかし、わたしたちは、そこに意味を見い出すことができるし、またそうせずにはいられない。だからこそ、生も川もかけがえがないほどに尊いのだと思う。
(「後書」より)
目次
- KujikawaへRivermanかえる
- 水の地図
- 榊橋
- 金の川をゆく
- 川盗人
- 溢水期
- 風景
- 路地
- 川の名を知らず
- ナイヤガラ氏
- 深夜の道へ
- 魂祭
- 水の地図Ⅱ
- 無間神社
- わたしが川になるとき
- 川火事の夜に
- 偏頭痛typhoon
- Scrambled交差点
- 新月の方へ
後書