1974年5月、風書房から刊行された高木護の短編小説集。2013年、脈発行所から復刊。
松永君と電話ではなしていた。
たまたま「あんたのむかしの小説だが」というはなしになって、「あれには、それなりの真剣な真情吐露があったよ」と松永君はいう。このところお茶の出酒もいいところで、ろくな仕事しかしてない怠け者のぼくに、もう一度あの頃の「思いつめたような初々しさに還れ」という忠告に違いない。そういわれて思い出したのだが、いまから二十四、五年前に熊本市から出はじめた同人誌の『詩と真実』の初手に出してもらったものである。放浪癖のあるぼくの手許にその掲載紙があろうはずがなく、初手の編集者の一人であられた伊吹六郎さんの貴重な蔵書用の一揃いから、お願いをしてコピーしていただいた。
もちろん、松永君の好意と勧めもあって、一冊の小さな短篇集として小部数刷ってもらうことになったからである。読み返しながら、あの頃の心に立ち還ることは不可能だが、あの頃の心をこわさないほどの加筆をした。発表順は「無名詩人」「酒」「兎の死」「川蝉」ということになる。ともかく、松永君に感謝する。
(「あとがき」より)
目次
- 酒
- 川蝉
- 無名詩人
- 兎の死
『川蝉』のころ 松永伍一
あとがき