1988年8月、書肆山田から刊行された稲川方人の第5詩集。装幀は青山杳子。
本書は、過去の一時期に書かれ、書かれたきり、たとえば本書に引用される『哲学の図および世界を姦通する洞』のように、ひたすらじぶんが書物となることを夢みる本などとはちがい、なにか、またとない偶然の機会を得てほとんど反射的に忘れられた詩集であり、そのくせ一冊となったのにも、だからたしかに偶然の理由しか関わっていないはずだが、それなりにひとつの忘備があるとすれば、それは、こうして収められた諸片が、過去においても現在においても、ただいっしんに贋の「詩」を生きようとしている、そのことが、作者によって反射的に思い出された、ということにつきる。
(「覚書」より)