流記 田野倉康一詩集

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 2002年6月、思潮社から刊行された田野倉康一の第4詩集。第13回歴程新鋭賞受賞作品。

 

「流記」とは、たとえば『法隆寺伽藍縁起并流記(ならびにるき)資財帳』が時間の流れに沿って、何百年もひたすら書き足されてゆくことによって成立した法隆寺の財産目録であったように、時系列で一切の取捨選択をなしにリアルタイムで書き足されてゆくそれ自体が自律的な時間そのものであるような書物を意味している。それは人間の「生」がそうであるように、本来取捨選択の範疇にないある〈世界〉の全体を呈示する方法として有効なのだ。歴史が、叙述されることによって常に何ものかを切り捨てて来た西洋的近代とは異なる、あるまるごとの「歴史」、あるいはまるごとの「生」こそがそこに立ち現れてくるように思われるのである。
 本書は、そのような西洋的時間意識とは異なる場所で、今日失われてしまって久しいある〈全体〉としての「歴史」を組み立てるべく試みられたひとつの見取り図としての側面をもっている。したがって本書もまた、法隆寺の資財帳と同様にその都度到来した詩篇をリアルタイムにならべてゆくことによって成立しており、それゆえに各詩篇の叙述やイメージ、作中の事実やその時空間の重複は意図的にそのままになっている。
 今後、そのような見取り図の彼方に、さまざまな細部が与えられてゆくことになるだろう。だが、それは必ずしも作品間に共通の主題、共通の方法、さらにはある統一的な〈世界〉の共有を意味するものではない。それが最終的にどのような〈全体〉を呈示しうるか、何によってその〈全体〉が保証されるかについては僕自身、ある見通しは持っているのだが、今は語らないことにしておきたい。むしろ、それをともに希求し、想像し、創造してゆくことが詩を書き、読むことの醍醐味であると、この詩集に触れることによって思っていただけるなら、著者として望外の喜びである。
(「あとがき」より)


目次

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あとがき


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